真性導電性ポリマー (ICP) は、その優れた特性により大きな注目を集めています。 これらには、優れた化学的、熱的、酸化的安定性、調整可能な電気的特性、触媒能力、光学的および機械的特徴などが含まれます。 ICP は、センサー、帯電防止コーティング、発光ダイオード、トランジスタ、フレキシブルデバイス、および通過する光の量を調節する「スマート」ウィンドウなどのエレクトロクロミックデバイスの活性材料として、無数の用途に使用されています。
PEDOT としても知られるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン) は、市場で最も有望な ICP の 1 つです。 その高い導電性、電気化学的安定性、触媒特性、ほとんどすべての一般的な溶媒に対する高い不溶性、および興味深いエレクトロクロミック特性 (例えば、ドープ状態では透明で、中性状態では着色) によるものです。 この技術資料では、分光電気化学的手法により PEDOT 膜を評価します。
このラマン特性評価研究は、SPELEC RAMAN (785 nm レーザー) 装置 (図 1a)、レーザー波長に対応するラマン プローブ、およびスクリーンプリント電極 (SPE) 用のラマン分光電気化学セルを用いて行われました。
紫外可視分光電気化学測定は、SPELEC 分光電気化学測定装置 (図 1b)、このスペクトル範囲用の反射プローブ、および SPE 用の反射セルを用いて行いました。
この研究では、PEDOT フィルムでコーティングされた金 SPE (220AT) が使用されました。 このセットアップにより、ユーザーは電極表面にある PEDOT の挙動に関する明確で詳細かつ簡潔な情報を取得できます。 SPELECおよび SPELEC RAMAN 装置は DropView SPELEC ソフトウェアで制御されました。 DropView SPELECソフトウェアは、分光電気化学情報を提供する専用ソフトウェアであり、収集されたデータの適切な処理と解析を実行するためのツールが含まれています。 この研究に使用したすべてのハードウェアとソフトウェアを表 1 にまとめます。
表 1. ハードウエアとソフトウエアの概要
装置 | 製品名、番号 |
---|---|
Raman Instrument | SPELECRAMAN |
Raman probe | RAMANPROBE |
Raman spectroelectrochemical cell for SPEs | RAMANCELL |
UV-Vis Instrument | SPELEC |
Reflection probe | RPROBE-VIS-UV |
Reflection spectroelectrochemical cell for SPEs | REFLECELL |
Gold SPE | 220AT |
Connection cable for SPEs | CAST |
Software | DropView SPELEC |
ラマン分光電気化学は、Au SPE上にコーティングされたPEDOTの異なる酸化状態(中性およびドープ)のフィンガープリント特性評価に用いられました。0.1mol/L過塩素酸リチウム(LiClO4)水溶液中での中性状態(ノンドープ)のスペクトルは-0.40V(図2、青線)に、pドープPEDOTのスペクトルは+0.50V(図2、赤線)に示します。
各ラマンバンドの振動モードの割り当てを表2に示します。特徴的な振動モードはポリマーの酸化状態に依存しており、特にラマンシフト領域(1100-1600cm-1)に位置するものが顕著です。PEDOTのいくつかのラマンバンドは、ドープ状態でアップシフトしています。Cα-Cα'環間伸縮振動モードは、中性のPEDOTでは検出されませんが、ドープ状態では1293cm-1に観測されます。
表 2. 中性およびドープされた PEDOT の振動帰属 [1–3].
PEDOT ラマンバンド (cm-1) | 振動帰属 | |
---|---|---|
Neutral(中性) | Doped(ドープ) | |
445 | 445 | Oxyethylene ring deformation |
580 | 580 | Oxyethylene ring deformation |
700 | 710 | Symmetric Cα-S-Cα’ ring deformation |
861 | 855 | O-C-C deformation |
992 | 992 | Oxyethylene ring deformation |
1101 | 1138 | C-O-C deformation |
1230 | 1234 | Cα-Cα’ inter-ring stretching + Cβ-H bending |
1266 | 1266 | CH2 twisting |
- | 1293 | Cα-Cα’ inter-ring stretching |
1372 | 1372 | Cβ-Cβ’ stretching |
1422 | 1455 | Symmetric Cα=Cβ(-O) stretching |
1510 | 1530 | Asymmetric Cα=Cβ stretching |
1540 | 1560 | Quinoid structure |
UV-Vis分光電気化学によって得られる貴重な定性的情報によって、金電極上にあらかじめ堆積されたPEDOT膜の完全な特性評価が可能になりました。分光電気化学実験は、0.1 mol/L LiClO4水溶液中で、電位を0.00 Vから+0.70 Vまで、そして-0.40 Vまで、0.05 V/sで2サイクル走査しました。UV-Visスペクトルは反射型(積分時間300ms)で記録し、電気化学実験中に約300のスペクトルを収集しました。電気化学的反応と分光学的反応の同期は、SPELEC装置によって完全になされます。
サイクリックボルタンメトリー(図3a)では、PEDOTの酸化状態の変化に関連する顕著な電気化学的ピークは見られませんでした。しかし、同時に記録されたスペクトル(図3b)には、525nmを中心とする紫外可視バンドがはっきりと観察されました。
電位の変化に伴う波長 525 nm の吸光度の変化を図 4 に示します。当初、吸光度は0.00 Vから+0.70 Vまで減少しました。折り返しのスキャンでは、吸光度は-0.40 Vまで増加してから、0.00 Vまでは減少して、実験開始時と同様の値に達しました。2回目のスキャンでは、分光シグナルは同じ分光電気化学的挙動を示しました。0.40Vでの波長525nmの吸光度は、どちらのサイクルでも同じ値を示し、このフィルムが少なくとも2サイクルは安定であることを示しています。
この吸光度バンドの電位による変化は、PEDOTのエレクトロクロミック特性と一致しており、正の電位ではドープ状態で無色であるのに対し、負の電位では中性状態で着色いたします。
図5は、波長525 nmにおける微分ボルタアブゾプトグラム: derivative voltabsorptogram(吸光度-電位曲線:dAbs/dt vs. 電位)です。この微分曲線は、同時に流れる電流のファラデー成分にのみ関係しています。図5で観察できるように、この微分曲線は、その可逆的な挙動を通じて、ポリマーのドーピングの有無の違いを示しています。
スペクトロエレクトロケミストリーは、エレクトロクロミック材料、例えばPEDOTポリマーの特性評価に卓越した結果をもたらすマルチレスポンス技術です。
ラマン分光電気化学では、ラマンバンドの位置が酸化状態に依存するため、サンプルの中性状態とドープ状態の識別を可能にするフィンガープリントを得ることができます。更に、紫外可視分光電気化学法では、可視領域に吸収帯が存在するため、PEDOTの電気化学的特性をスペクトルでモニタリングすることができます。吸光度は、正の電位(ドープ状態)では減少し、負の電位(中性状態)では増加します。
電位によるPEDOTコーティングの安定性を分析し、その光学特性を完全に理解することは、新しい材料や製品の開発において極めて重要なこととなります。
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- Garreau, S.; Louarn, G.; Froyer, G.; et al. Spectroelectrochemical Studies of the C14-Alkyl Derivative of Poly(3,4-Ethylenedioxythiophene) (PEDT). Electrochimica Acta 2001, 46 (8), 1207–1214. https://doi.org/10.1016/S0013-4686(00)00693-9.
- Tran-Van, F.; Garreau, S.; Louarn, G.; et al. Fully Undoped and Soluble Oligo(3,4-Ethylenedioxythiophene)s: Spectroscopic Study and Electrochemical Characterization. J. Mater. Chem. 2001, 11 (5), 1378–1382. https://doi.org/10.1039/b100033k.
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