細胞培養は、バイオ医薬品産業において細胞の健康状態をモニターするための重要な役割を担っています。望ましくない副反応や収率低下を克服するには、このプロセスを厳密にコントロールする必要があります。
グルコースは細胞のエネルギー源として不可欠ですが、解糖によるエネルギーへの変換は乳酸を生成します。乳酸の蓄積は酸性化を誘発し、細胞ストレスと細胞増殖率の低下を引き起こします。
手作業による試験室での方法はかなり面倒な場合があり、分析者によってバイアスが発生し、結果が不正確になり、サンプルが汚染されることがあります。
これらの問題に対処するにあたってインラインラマン分光法は、非常によく適した分析技術といえます。なぜなら試薬を必要とせず、サンプルをそのまま使えるからです。
本プロセスアプリケーションノートは、Metrohm Process Analyticsの2060RamanAnalyzerを用いて、«リアルタイム»でバイオリアクタ-内部の細胞増殖を正確にモニタリングする方法を紹介します。細胞培養においてインラインプロセスアナライザーは、高品質を保証し、測定時の汚染を避けるための好ましい解決策です。
細胞培養は、複雑な治療用蛋白質、モノクロナール抗体、ワクチン[1]などを含む幅広いバイオ医薬品の生産に不可欠な工程です。このプロセスは、目的の生産物を産生するためにバイオリアクターといった制御された環境下で細胞を増殖させます。
グルコースは、細胞が成長し、分割し、最終生成物を形成するために必要なエネルギーを供給するので、細胞培養の重要な構成要素です[2]。図1は、グルコースを細胞内のエネルギーに変換する基本的なプロセスを示しています。
グルコースをエネルギーへ変換(すなわち、糖分解)は、乳酸の生成をもたらします。細胞培養培地中の乳酸の蓄積は、細胞の成長と生産性に悪影響を及ぼす可能性があります。
乳酸は酸として機能するため、培地中で蓄積するとpHが低下し、細胞ストレスが誘発され、増殖率が低下します[4]。
乳酸蓄積を防ぐために、製造者は乳酸量を許容範囲内に維持するために細胞培養状態をモニタリングし、調整しなければなりません。これには、培地中のグルコース濃度を連続的に測定し、過剰投与または過少投与を防止するための正確な調節を保証することが含まれています。
通常、分析者は手動で(オフライン)このような測定を行います。しかし、この手法では汚染が一般的であり、データは細胞培養プロセスの真の状態を反映していません。
バイオリアクター内において複数のパラメータを同時にモニタリングするより安全で効率的かつ迅速な方法は、試薬がいらないラマン分光法によるインライン分析です(図2)。これは非破壊・非接触技術であるため、バイオリアクターで直接インライン分析を行う場合に理想的です(図2左側)。
メトローム プロセスアナリティクスの2060ラマンアナライザーは、細胞培養バイオリアクター中のグルコースと乳酸をモニタリングするために必須のキャリブレーションモデルを簡単に作成し、プロセス中の«リアルタイム»スペクトルデータを参照メソッド値(例えば、滴定法、イオンクロマトグラフィ法、HPLC)と比較ができます。
«Real-time»の培養の状態を分析することにより、解糖反応を制御範囲内に保ちます。さらにインライン分析は、異なるプロセスの現在の状態に関する情報(例えば、基質の消費および動態)を提供することができます。
使用レーザー: 785nm
Metrohm Process Analyticsが設計したオートクレーブ可能な浸漬プローブを用いてインライン分析が可能
Metrohm社のIMPACTソフトウエアとVisionソフトウエアを併用し、2060RamanAnalyzer(図3)でスペクトルデータを収集しました。測定は毎分行いました。
表1 2060RamanAnalyzer(図3)を用いた細胞培養バイオリアクター中の2つの測定パラメータの予測値
グルコース | 乳酸 | |
---|---|---|
最小濃度 | 0.1 g/L | 0.0 g/L |
最大濃度 | 40 g/L | 5.0 g/L |
バイアス | -0.1349 | -0.0849 |
SEP | 0.2009 | 0.1166 |
ラマン分光法は、高品質のデータが不可欠な多くの用途や産業で使用されています。2060RamanAnalyzerは、非接触分析を必要とする細胞培養モニタリングなどの測定用に設計された高性能ラマンシステムです。MetrohmのVisionおよびIMPACTソフトウエアと合わせて、2060RamanAnalyzerを使用することでほぼリアルタイムの結果を得ることができ、医薬品開発などのタイムクリティカルな工程を支援することができます。
- 細胞培養中のバッチの障害の早期検出できる。
- 一度の測定で複数のパラメーターを求められる。
- 非接触技術でサンプル汚染のリスクを最小限に抑える。
- 特定の素材識別のための固有のラマンスペクトルを利用できる。
- ラマンなら他の分光法を補完する水や湿気の低信号である。
- 非破壊技術であり、そのためインライン解析に理想的である。
- Cell Culture for Manufacturing. https://www.sigmaaldrich.com/NL/en/applications/cell-culture-and-cell-culture-analysis/cell-culture-for-manufacturing?gclid=Cj0KCQiA35urBhDCARIsAOU7QwnVfIHJBACARsDiW_HbgHGXW3Fs-69CzCg6ottMMj-nmakHFZ5QTrUaAt10EALw_wcB (accessed 2023-11-29).
- Glucose in Cell Culture. https://www.sigmaaldrich.com/NL/en/technical-documents/technical-article/cell-culture-and-cell-culture-analysis/mammalian-cell-culture/glucose (accessed 2023-11-29).
- admin. The Circle of Lactate: How Cancer Cells Can Reuse Their Own Waste. Science in the News, 2018.
- Li, Z.-M.; Fan, Z.-L.; Wang, X.-Y.; et al. Factors Affecting the Expression of Recombinant Protein and Improvement Strategies in Chinese Hamster Ovary Cells. Front Bioeng Biotechnol 2022, 10, 880155. https://doi.org/10.3389/fbioe.2022.880155.