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グラフェン、グラファイト、カーボンナノチューブなどのカーボンナノ材料は、それぞれ独特の物理的・熱的特性を持っているため、バッテリー、建築、スポーツ用具など様々な分野で重要視されています。これらの材料がより広く使用されるにつれて、シンプル、安全、かつ堅牢なキャラクタリゼーションの必要性が増していきます。

ラマン分光法は、選択性、分析速度に優れ、また非破壊で分析できる能力のために、カーボンナノ材料のキャラクタリゼーションのための重要なツールです。炭素材料のラマンスペクトルは、一般的に単純なように見えますが、ピーク位置、形状、相対強度によって内部結晶構造を追求することができます。

図1.のようなグラフェンベースのラマンスペクトルは、Gバンド、Dバンド、2Dバンドの3つの主要なピークを特徴とします。

図1. 異なる炭素同素体の構造

Gバンドは1580cm-1近傍に現れ、炭素原子二重結合の面内変角振動を表しています。高品質グラフェンではGバンドが非常に鋭く、結晶度が高いことを示しています。Gバンドの位置はグラフェン層の数に影響を受けますが、 レーザー励起波長には依存しません。

Dバンドは、グラフェンサンプル内の不規則性を示します。このバンドはグラファイト構造の欠陥や乱れ、末端から生じています。そのため、純粋なグラフェンでは、Dバンドは確認されず、欠陥がある場合に観察されます。また、Dバンドは分散挙動を示す共鳴バンドであるため、レーザー励起波長に影響を受けます。

2DバンドはDバンドの倍音であり、2Dバンドのピーク形状を用いて層厚を決定することができます。Dバンドと同様に、2Dバンドは分散挙動を示し、レーザー励起波長によってわずかに変化します。

Dバンドが欠陥を、Gバンドが結晶度を示している場合には、DバンドとGバンドの強度比(ID /IG)を半定量パラメータとして使用して、グラフェンサンプルの品質を決定できます。標本内の構造の乱れが大きくなると、強度比(ID /IG)も大きくなります。このパラメータは、製造現場において合否テストとして素早く使用できる品質管理チェック項目となります。

図2.は、異なるカーボンナノ材料のラマンスペクトルを示します。グラフェン(Pristine, 赤)はGバンドと2Dバンドのみを含み、Dバンドはありません。2Dバンドの強度とGバンドの強度比(I2D /IG)は約2です。グラファイト(緑)は2Dバンドが広く非対称的であることが特徴で、I2D /IG比率はかなり低いです。グラフェンの管を巻き上げたような形状であるカーボンナノチューブ(黒)は、 わずかに分裂したようなGバンドを示します[1]。

単層カーボンナノチューブの曲率は、GバンドをG+とG-の2つのモードに分裂させます。結晶度が最も小さいカーボンブラック(青)は、強いDバンドを示し、高ID /IGとなります。532nm以外のレーザー励起波長では、その分散性によりDバンド及び2Dバンドの位置にわずかなシフトが生じることには注意が必要です。

図2. 異なる炭素構造のラマンスペクトル

グラフェンベース材料の測定にi-Raman Prime 532Hシステムを使用しました。このシステムは、炭素のラマン測定のために一般的に選択される波長である532nmのレーザーを搭載しています。i-Raman Primeは組み込みタブレットコンピュータを搭載した低ノイズ、高スループットのポータブルタイプのラマン分光計システムです。光ファイバープローブをセットするためにプローブホルダー(BAC150B)を測定に使用しました。

エンクロージャー(BAC152C)を使用することで製造現場においてもレーザーClass1として使用できます。使用したレーザー出力は~34mWであり、スペクトル取得時間は30~90秒です。

表1. 実験パラメータ

装置 設定
i-Raman Prime 532H レーザー出力 100%
プローブホルダー (BAC150) 積算時間 30–90s
BWSpec ソフトウェア 平均 1

ID /IGの決定

ID /IGの計算に関する指針は、ASTM E3220「Standard Guide for Characterization of Graphene Flakes」[2]に記載されています。スペクトルにはピーク強度測定前にベースライン補正処理をします。Fig.3のスペクトルについては、BWSpecソフトウェアでベースライン除去アルゴリズムを適用しました。1550cm-1周辺と2300cm-1周辺の鋭いピークはそれぞれ大気中の酸素と窒素に起因します。

ベースラインの除去後、DバンドとGバンドのピーク強度を測定し、ID /IGを計算しました。ソフトウェアではIDとIG、得られたID /IGを自動的にレポートするように設定できます。結果はレポートとして簡単にエクスポート可能です。表2に、ソフトウェアで生成された表を示します。

表2. IDとIG、ID/IG の計算値 の測定

スペクトル D-バンド G-バンド D/G
a 2786.3214 1780.7942 1.5647
b 2184.0956 3037.7693 0.7190
c 851.1320 1457.8104 0.5838
d 1318.5770 2123.2700 0.6210
e 5179.8889 3289.7727 1.5745
f 2786.3214 5583.2101 0.4991

表3.において、ナノファイバースペクトルは、Gバンドにおける非対称性によって特徴付けられます。スペクトル(a)のID /IGは特に高く、そのナノファイバー試料内に欠陥構造が多く含まれていることを示しています。

カーボンブラック試料(c‐f)からのスペクトルは幅広いDバンドとGバンドで分類され、試料の結晶性が低いことを示しています。カーボンブラックサンプルの測定ID /IGはすべて0.5を上回り、サンプル内の構造的な乱れを示しています。ID /IGは、製造されたグラフェン、グラファイト、カーボンナノチューブ、およびカーボンブラック粉末の迅速なオフラインまたはアトライン品質管理試験として使用することができます。

図3. カーボンナノファイバー(a,b)及びカーボンブラック粉末(c-f)のラマンスペクトル(ベースライン補正、オフセット補正済み)

ラマン分光法はカーボンナノ材料のキャラクタリゼーションのための貴重な技術です。カーボンのスペクトルは非常に単純であり、しばしば三つのピークによってのみ特徴づけられます。

得られたスペクトルのピーク強度、形状、位置から、試料の内部結晶性に関する情報が明らかになります。Dバンドの強度とGバンドの強度の比は、構造的欠陥や単純な指標として用いられます。この指標であるID /IGは、研究者や製造者がカーボンナノ材料の特性評価に用いることができます。

  1. Ferrari, A. C. Raman Spectroscopy of Graphene and Graphite: Disorder, Electron–Phonon Coupling, Doping and Nonadiabatic Effects. Solid State Communications 2007, 143 (1), 47–57. https://doi.org/10.1016/j.ssc.2007.03.052.
  2. ASTM International. Standard Guide for Characterization of Graphene Flakes; ASTM E3220-20; ASTM International, 2020.
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