イオンクロマトグラフィとは、液体クロマトグラフィの一種で主に低分子イオンを分析対象とする分離分析法のことです。ご隠居さんがイオンクロマトグラフィの定義について、楽しく詳しく解説します。
シーズン1 その壱(一)
先日,ちょいと早いかなと思いながらもツツジを見に根津神社まで行ったんですが,帰りに鳥居の前で池之端のMetrohm さんの番頭さんの声をかけられましてね。
「ご隠居さ~ん!ご無沙汰してます。ちょっとその辺で軽くどうですか??」
あたしゃ『乃池』の穴子で一杯ってぇのが良かったんですが,そこいら辺の赤提灯に連れて行かちまって,,,,,,そんでもって唐突に,
「ご隠居さん!例の奴,宜しく!」
はて,何のことやら。ここんところ,ちょいとばかり耄碌しちゃいましてね。けど,「何の話でしたかね?」なんて聞き返すのも野暮だし,一杯入っていたもんで,つい勢いで,
「この隠居に任しておきなさい。伊達に歳を取っちゃいないんだから,,,」
なんて答えちまったんですよ。見栄はいけませんなぁ,見栄は。
番頭さんといろいろ話してる内に思い出しましたよ!
Metrohmさんの先代の大旦那から,イオンクロマトグラフィー (ICって略しますよ) の「ホームページ」ってのを開くんで,手伝ってくれって頼まれてたんでした。
「分析技術って,機械の善し悪しじゃなく,智慧そのものですよね。団塊の世代が引っ込んじまうと,技術も智慧も失われちまうんですかね?先人の智慧や苦労をホームページで残そうと思ってんですけど,若い奴らの刺激にもなると思うんで手伝っちゃくれませんかね?」
さすが大旦那はいいこと云いますね。
こうゆう話なら,隠居の身でも多少は若いもんの力になれそうですな。亀の甲より歳の功ってやつで,蘊蓄の一つや二つも語ってやろうかと,お手伝いすることにしたってぇ訳ですよ。
てなことで,今月からコラムを書かせて頂くことになりました。あたしが見聞きしたことや,今だから言える失敗談なんかを織り交ぜて,取り留めもなく書かせて頂こうかと思ってますんで宜しくお願い致します。
さて,皆さんは,「イオンクロマトグラフィー」のことを,「イオンクロマト」や「IC」だの,はたまた「イオンクロ」なんぞと呼んでいますが,ICの定義って何でしょうかね?この言葉,以外と難題なんですよ。あたしは次のように話しをすんですが,,,
「液体クロマトグラフィーの一種で,主に低分子イオンを分析対象とする分離分析法」
ICは,1975年に”Analytical Chemistry”って雑誌に載ったH. Smallさん達の”Novel Ion Exchange Chromatographic Method Using Conductivity Detection”って題名の論文が始まりなんですよ。連中はね,イオン交換樹脂でイオンを分離してあと,電気伝導度検出器で検出したんですよ。こう書くと,何にも不思議じゃない。誰だって判ります。けどね。イオン交換樹脂でイオンを分けるにゃ塩 (電解質) がいりますよ。その塩の中に入っているほんの僅かなイオンだけを電気伝導度で検出するってとんでも無いことなんですよ。そう簡単にできるもんじゃない。連中はね,とんでも無いからくりを思いついたんですな。分離に使った塩 (正確には対イオン) を,別のイオン交換樹脂で取り除いちまいやがった。するってぇとどうですか。塩が無い,つまり,いっぱいあった余計なもんが無いからほんの僅かなイオンも電気伝導度で簡単に検出できちまうていう仕掛けだ。この塩を取り除いちまう魔法の道具が「サプレッサ」なんですよ。
この頃のサプレッサてのは,筒にイオン交換樹脂を詰めただけの何の変哲もない簡単な道具なんですが,発表された当時は目ん玉が飛び出すくらい驚きましたね。使ってるもんがあまりにも当ったり前のもんだから,すぐさまやってみようって話になったんだが,とっくに特許を取られちまって手も足もさせないんですよ。完全にやられましたね。
つまり,端のICってのは,
壱:イオンをイオン交換樹脂で分離して,
貳:余計なイオン (対イオン) を反対のイオン交換樹脂で取り除き,
参:イオンを電気伝導度で検出するっていう,
三つが揃ってはじめて「IC」だったんです。「サプレッサ」がICの心臓部ってことです。これだと,確かに「高速液体クロマトグラフィー (HPLC)」とは区別できるんですが,,,
けど,技術の進歩ってのは皮肉ですな。肝心の「サプレッサ」が無くってもイオンを高感度に測定できてしまった。さらに追い打ちで,イオン交換樹脂を使わすにイオンが分離できてしまう。こうなると,何がICなんだか訳が分からなくなっちまったんですよ。
てな訳で,近頃では「サプレッサ」があろうがなかろうが,「低分子イオン,主に無機イオンを分析対象とする液体クロマトグラフィー」のことをICって呼ぶようになってるんですよ。
コラムのほうはこんな調子で書かせて頂こうかと思っておりますんで,呆れ返らず読んで頂きたいと思います。皆さんが困った時に少しはお役に立ちそうな裏技をお披露目しようかと思ってますんで,これからも宜しくお願い致しますよ。
それでは,また来月,,,
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