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イオンクロマトグラフで水を測定したらクロマトグラム上に入ってもいない成分のピークがある!?未知ピークが出た時の対処方法について、今回もご隠居さんが楽しく明快に解説しています

シーズン1 その肆(四)

「ご隠居さ〜ん。音羽のご隠居〜。音羽の元締め〜。」 

 

「元締め〜?誰だい,元締めなんていう奴は,,,おや,Metrohm さんとこの番頭さんかい。あたしゃ,必殺仕掛人じゃないんだから元締めってのはないだろ。たしか,山村聡に,林与一,それに〜緒方拳だったかな?みんな渋くていいけどねぇ。」
 

「先月はどうなされたんですか?具合でも悪いんじゃないかって気にしてたんですが,,,」
 

「先月〜?あぁ,申し訳なかったね。締めを忘れちまった上に,ちょいと堀之内の御祖師様まで行っちまったんで,,,千駄木の隠居にも迷惑かけたちゃったねぇ。直ぐに根津と千駄木に謝りに行こうと思っていたんだけど,つい後回しにしっちまって。そのうちに,敷居がどんどん高くなってきて,終いにゃ鴨居になっちまった。いい歳して,情けないったらありゃしない。」
 

「いいですよ,気にしなくって。ちょうど,ご隠居のところにお見舞いに行くところだったんですけど,元気そうで良かったです。先日,会津のほうから,越後,越中と廻ってきたんですけど,名物だってんで素麺買ってきたんですが,お口に合いますかどうか。」
 

「会津に,越後に,越中ですか,,,夏の盛りだから,暑くて大変だったね。ご苦労様ですね。おや,大門素麺じゃないですか!嬉しいねぇ。こいつはぁ腰があっていい。麦の香りも強くて,大好物ですよ。有り難く頂戴しますよ。こんな暑い日にゃもってこいですな。」
 

「ところで,ご隠居。今日はどちらにお出かけで?」
 

「上野の御山の伊豆栄までチョイと鰻を,,,土用の丑の日に行かれなかったんで。こないだのお詫びって訳じゃないけど,番頭さんも一緒にどうだい。白焼きで一杯なんて,,,そうかぁ,番頭さんはいけない口だったっけね。私は勝手にやらせて貰うけど,お付き合い願えるかな?」
 

「鰻ですか,結構ですね。お供致しますよ!相談もいろいろありますんで,,,」

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「あのぉ〜,水って簡単に腐っちまうもんですかねぇ?実は,会津のほうの新規のお客さんなんですけどね。リン酸がうまく測れたらひとつ買ってくれるってんで,水を貰ってきたんですが,いざ測ろうとしたら黄色くなってて,,,嫌な臭いも少しするんで,腐っちまったかなって,,,井戸水ってんで,ろくに見もせず,話しも聞かず,貰ってきちゃったんです。端はそんなこたぁなかったんで,,,昨日,清さんに測って貰ったらリン酸なんていないってんです。拡大すりゃチッとは見えるんですけど,お客さんのいうのとずいぶんずれてるんで,,,」

「井戸水が腐るって!そんな簡単には腐りませんよ。一体どうやって持ってきたんだい?」
 

「いつも通,プラの瓶に半分くらい入れて貰って,念のため,黒のゴミ袋で包るんできたんです。車の後ろの席にほっといたら,この温気でしょ,かなり温まっちゃって。店に戻ってから直ぐに冷蔵庫には入れたんですが,,,」
 

「ふ〜ん,なるほどね。そりゃ腐ったんじゃないかもしれないよ。同じかどうか判らないけど,思い当たるもんがあるよ。」

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端は無色だった井戸水が,二三日で黄色くなったって話しだね。

思い当たるふしってのは,もう弐拾年も前の話しなんだけど,,,かなり騒がれたんでどこかで聞いたことがあるんじゃないかな?バングラデシュのヒ素汚染てやつ。井戸水ん中にppm以上のヒ素が含まれていて,何十万人もがヒ素中毒になったって話しだよ。知ってるかい?

この井戸水が癖もんでね。端は透明なんだが,水を汲んで日本に持ってきたら,橙みたいな黄色になっちまった。何でも,強い還元性の井戸水で,運んでる間に空気中の酸素を吸って,溶けてる鉄イオンが二価から三価に変わっちまうそうだ。色が黄色く変わっちまうと,ガラス瓶の内側に小さい黒いつぶつぶが付いていたっていう話しだよ。

その会津の井戸水って,ひょっとして磐梯のもんじゃないかな。裏磐梯の温泉は鉄分が強くて,黄金色だってのを売りにしている湯だってある。ほら,「エィーヤ〜,会津磐梯山は宝のコリャ山よぉ〜,笹に黄金がエェ〜また成り下がる,チョイナ〜,チョイナ〜」なんてのがあるだろ。こりゃ,金じゃなくて,多分鉄の唄じゃないかと思ってるんだが,,,

当て推量かもしんないけど,,,容器に半分しか入れてないんだから,車に揺られて空気を一杯吸ったんだね。そんでもって,井戸水ん中の二価の鉄イオンが酸化されて三価になる。三価の鉄イオンはリン酸と沈殿性の塩を作って容器にくっつくって訳だ。先のバングラデシュの井戸水の黒いつぶつぶはヒ酸鉄の沈殿なんだよ。ヒ酸はリン酸の仲間だから同じことが起こったって不思議じゃない。実際,リン酸やヒ酸が入っている水に三価の鉄イオンを加えると,沈殿ができちゃって正確な濃度が測れないんだよ。ちなみに臭いのほうは硫黄の化合物かもしれないね。

会津のお客さんてのは,今まではどうやって測ってたんだい?吸光光度法でも使ってたのかい?やっぱりね。リン酸は,モリブデン青吸光光度法で測ることができるね。ケイ酸も発色するんだけど,反応液の硫酸濃度を高くするとケイ酸が邪魔しないって話しだ。予め酸分解をした後だと,鉄があっても問題なく測れるんだがね。お客さんのほうじゃ,七面倒くさい吸光光度法を止めて,イオンクロマトにしたいんだろうけど,,,

えっ,イオンクロマトじゃないと駄目なんだって!正直いって難しいねぇ。それでも試してみたいっていうんですか〜?できるかどうかわからんけど,鉄を二価イオンのままで止めておけりゃ何とかなるかな。水を採ったら,直ぐにアスコルビン酸みたいな還元剤を入れておけば鉄イオンが三価になりにくくなるんで,リン酸が測れるかもしれないね。自信はないけど,一度やってみるかい???それなら,もう一度会津まで水を貰いに行かなきゃならないね。

もう一つ,金属を含む水に関しちゃ,気を付けなきゃいけないことがあるんだよ。鉄に限ったことじゃないんだが,金属はアルカリ中で水酸化物になる。金属が入っている水を陰イオンカラムに打つと,金属水酸化物ができて分離カラムに吸着するんだ。リン酸はこの金属水酸化物に吸着するんで,こんな水を続けて打っていると,そのうちリン酸のピークが小さくなってきちゃって,終いにはピークがまったく出なくなってしまうこともあるんだ。忘れないでいて下さいね。

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井戸水はそう簡単に腐りゃしないけど,微生物が沢山入っているような水は腐りやすいですな。微生物が入っているかなんて簡単にゃ判らないけど,どんな水でも採ったら直ぐに0.2 µm位のメンブランフィルタでろ過ですよ。当然,容器の口まで目一杯に水を入れて下さい。樹脂の容器は空気が透過しやすいんで,吸着や溶出の問題さえなければガラスにしたほうがいいですね。また,目的によってはpHを合わせたり,酸化剤や還元剤なんかを入れなきゃいけません。そうしといて,冷蔵庫にしまっとけばそう簡単には腐りゃしない。そうそう,再試験をしなければならないことだってあるんで,念のため二本ずつ採ってくるといいですよ。

腐るっていえば,溶離液だって腐るんですよ。有機酸系の溶離液は,微生物の格好の餌だからね。だから,溶離液の作り置きをしたり,注ぎ足したりして使っちゃだめですよ。
まぁ,データが上手く採れなかったり,トラブルが続きゃ,人間だって腐りますけどね。

では,また来月,,,

 

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