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イオンクロマトグラフで水を測定したらクロマトグラム上に入ってもいない成分のピークがある!?未知ピークが出た時の対処方法について、今回もご隠居さんが楽しく明快に解説しています。

シーズン1 その睦(六)

「ごめんなさいよ!番頭さんはおいでかい?」 
  

「あっ,千駄木のご隠居さん。お忙しい中ご足労頂き有り難うございます。急にお呼びたてして申し訳ありません。実はねぇ〜,音羽のご隠居がまた行き方知れずで,,,」

 

「またですか〜。神無月ですから出雲にでも行ったかな。あんた等にとっちゃ神様だもんね。」
 

「確かにね。けど,そんな遠くじゃないでしょう。近くの出雲なら神保町の出雲蕎麦本家でしょうけど,もう店を閉めたって話しですよ。あのぉ〜,相談てのは,久しぶりにイオンクロマトグラフで遷移金属を測ったんですが,変なことが起きちゃいまして,,,これなんですが,みて下さい。以前には問題なくできたんですが,今度は何度やっても変なんです。鉄だけが,,,」

 

「どれどれ。ふ〜ん。こりゃ,鬼ヶ島だね。何とかなるよ。安心しなさいな。」

 

「鬼ヶ島ですか?そういや〜,鬼の角ですね。バットマンの頭ってのもありますけどね。」

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これはね。カラムん中で鉄の二価が三価に変わってるからこうなるんですよ。

何,ピークが2本出てるし,保持時間も違う,それにピークの間が浮いているって,,,
そうですねぇ。けど,そこが鍵なんですよ。保持時間が違うのは,溶離液の影響もあるから何ともいえないけど,2つのピークの間が浮いているというのがすべてなんですよ。
二価の鉄の溶液を打遣っておくと,三価の鉄になっちまうってことぐらいご存じですよね。溶存酸素で酸化されるんだけど,分離カラムの中に酸素がいっぱいあったらどうなるかね?

デガッサで脱気してるって,,,はいはい,その話は少しおいといて,分離カラムの中に酸素があったらどうなるかって話しだ。そう,分離カラムの中で二価から三価になっちまうだろ。
いつもの条件じゃ三価はほとんど充填剤に捕まらないから真っ先に出てくるよね。逆に,二価は遅れて出てくる。これはいいですよね。それでは少し拈った話しだけど,入ったとたんに三価になっちまったのは何処に出ますかね?こんなことは実際にはあり得ないんだけど,三価の位置に出てくるって考えていいですよね。それじゃ,二価が出てくる時間の半分の時間のところで三価になったのは何処に出ますかな?そう,三価と二価のちょうど間の所に出るんですよ。

実際,瞬間的に変わるなんてことなんてこたぁないから,分離カラムに入った時には三価だけど,分離カラムの中にいる間に二価が徐々に三価になり,その二価もいつかしら三価になってしまう。そうすると,極端にテーリングしたようなピークになったり,鬼ヶ島みたいな格好のピークになったりするって訳だよ。ピーク形状は打つたんび違うってこともある。ベースラインから浮いている部分も鉄なんですよ。何となく判りましたか?

えっ,何で分離カラムに酸素がいるのかって?細かなことはよくは判らないんだが,イオン交換樹脂,特に陽イオン交換樹脂は酸素を良く溜めるんだ。水に入れて超音波をかけると小さな泡が一杯出てくるね。暫く使っていないと酷いんだ。だから,分析前に酸素抜きをしてやらなきゃいけない。分離カラムをアスピレータで引くって?そんなことしちゃいけないね。亜硫酸ナトリウムを十分脱気した水に溶かしたもの (0.1 mol/L位) を1時間も流しておくと良くなるよ。そこいらで一服して待ってるから,さっさとやってごらん。

どうですか?ほぉ,うまくいきましたね。綺麗なピークだね。保持時間もピッタシだね。溶離液の作り方には問題なかったってことだね。ちなみに二価の鉄の標準液には酸化防止のために還元剤を入れておいて下さいね。亜硫酸ナトリウムやアスコルビン酸なんかがいいと思うけど。当然,混合標準液は作らないほうが無難だね。

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イオンクロマトグラフで測定していると、鉄以外にも鬼ヶ島になっちまうのがありますよ。糖です。糖には互変異性ってのがあって,鎖状のアルデヒド型と環状構造を互いに行ったり来たりしています。環状構造になる時,1番炭素の酸素 (アルデヒドの酸素) が水酸基に変わるんだけど,下に向いた奴と,上に向いた奴ができちまう。これをアノマーっていって,下向きをα-アノマー,上向きをβ-アノマーっていいます (下図)。

糖は溶液中では大半が環状構造を取っていて,2つのアノマーの比率は糖の種類によって一定なんです。例えは,ブドウ糖 (グルコース) 37:63でβ-のほうが一杯いる。α-のブドウ糖を溶かすと,行ったり来たりを繰り返していつかはこの比率に落ち着くんだよ (下図左)。この行ったり来たりは,イオンの解離と違って非常にゆっくりなんで,分離カラムの性質 (特に配位子交換型) と分析条件によってはこれらを分けることができるんです (下図右)。カラム温度を低くすると行ったり来たりがほとんど止まるんで分けられますよ,カラム温度が少し高くなってくると分離カラム内で行ったり来たりが始まるんで鬼ヶ島っぽくなります。当然,もっと温度を高くすると行ったり来たりが凄く早くなるんで1本のピークになっちまいますがね。

鬼ヶ島は岡山県総社市にある鬼ノ城だって説があります。岡山には桃太郎伝説もありますし,吉備津神社には鬼だったっていう温羅の話しも残っていますよ。倉敷から吉備路を巡って備中高梁まで,のんびりと秋の旅でもしてみたくなってきました。いい時期だもんね。 けど,音羽のご隠居は何処に行っちまったんだろうね。来月は忘れずに書いて下さいよ。

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

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