イオンクロマトグラフのカラムが詰まってしまった場合、ろ過だけでは不十分な場合があります。今回はカラムの詰まる原因やその予防方法について解説します。また、シリコンの入った試料を測定する際の注意点もご隠居さんが詳しく教えてくれます。
シーズン1 その捌(八)
「御免下さいよ。おや,朝から皆さんお揃いで,,,何かありましたかな?」
「あっ。音羽の御隠居さん。丁度いいところに。イオンクロマトグラフのカラムって逆流ししていいですかね?」
「唐突だね。お墓掃除に出たついでに寄っただけなんだけど,,,逆流しですか?してもいいのもあるけれど,どれでもいいってわけじゃない。どれどれ,ちょっと見せてくださいな。」
「此奴です。昨日一寸やってみたらうまくいったんで,夜に連続を仕掛けたんですが,今朝来てみると,圧力上昇で停まって5回も測れていないんです。明日連続のデータをお客に出さなきゃいけないんですが,カラムの予備を持ってないんですよ。お尻に火が付いた状態です。」
「この暮れに来てそりゃ大変だね。清さん,ガードカラムを取り外して分離カラムだけの圧を見て下さいな。どうですか?うん,なんともない?普段通りですか。よかったですね。」
「じゃ、ガードカラム無しで採ればいいですよね?」
「いやいや焦ってはいけませんよ。お真樹さん,もう一台動かしてくれませんか?ガードカラムだけ逆流ししてごらん。流量は半分にしてね。えっ,一気に下がった。そりゃ良かった。そしたら元通りに繋いで標準でも打ってくださいな。」
「これで,正常だったら続けていいんですかね?」
「相も変わらず,番頭さんはせっかちだね。そう慌てなさんな。慌てる乞食は何とかっていうでしょ。それより試料は何なんですかな?」
「それが,よく判らないんです。シリコンか何かを作っている会社なんですが,微量の塩素を測りたいっていうんです。再現性さえ良かったらすぐにでも買うっていうんで,,,」
「シリコンですか?あたしの推量じゃ,直ぐに始めても多分結果は同じだよ。よく説明するから,最後までしっかりお聞きなさいな。」
ご存じのように,カラムの圧力上昇の原因ってのは,試料中の固形分の影響ですよね。詰まる場所は,カラムフィルタですね。イオンクロマトグラフ用カラムの充てん剤の粒子径は5〜10 µmですから,此奴等が抜けてこないように2 µm位のカラムフィルタが使われているんだよ。ここで詰まらせないように,1 µmあるいは0.5 µm位のフィルタでろ過しなきゃいけないんですよね。
ろ過はしてるって。判ってますよ。肝心な話はこれからです。
カラムで詰まるところはカラムフィルタだけじゃないんですよ。充てん剤の隙間だって詰まるんですよ。充てん剤の粒子径は均一ではないんで,充てん剤の隙間を単純に計算することはできないんだが,1 µmよりも小さいはずだよ。粒子径が小さい場合には,0.5 µmのろ過でも不十分のことだってあるんだよ。
ろ過さえしておけば詰まりは起きないかっていうとそうじゃない。カラム内で固形分ができないって保証はないからね。
今度の試料はシリコン会社のものだって云うじゃないですか。シリコンって,ケイ酸化合物でしょ。ケイ酸塩はpH変化でゲル化してしまうものが結構あるんだよ。昔話だけど,有機シリコンが入っている試料でトラぶったことがあるんだよ。溶離液で希釈するとゲル化して微粒子ができちまう。此奴が目詰まりを起こしてしまうんだ。早めに気が付いたんで,溶離液で2倍に希釈して,ろ過した後,測定するように云ったんだ。少しはましになったんだが,それでも圧力上昇はなくならない。カラムフィルタを交換しても,圧力はさほど下がらないんだ。そこで,希釈後,少し時間をおいてから,上澄みをそっと取って0.2 µmでろ過して貰ったんですよ。そしたら,何とか測れるようになった。けど,ガードカラムは毎月交換でしたけどね。
こんなことは滅多にないんだが,ICの試料っていっぱいあることのほうが多いんだから,事前に溶離液で希釈してみるなんてことをしてみたほうがいいよ。シリコンなんかは,酸性でも塩基性でもゲル化するんだからね。こんな時には,ガードカラムを使うことも忘れずにね。
ということで,まずその試料を溶離液で希釈してくださいな。塩化物イオン濃度はどのくらいですかな?10 ppb弱ですか,,,2倍希釈でも何とかなりそうですね。2倍に希釈したら,1時間くらい放置しておいて下さいな。ところで,遠心分離器は持っているかい?持ってないんですか,,,それじゃ,0.2 µmのメンブランフィルタは?こっちはある。本当は,遠心分離をした後,0.2 µmでろ過したほうがいいんだけどね。まぁ,いいでしょ。
さて,試料を置いておく間に,一服したら次の話だよ。
粒子がないって云う試料を測定していても,長く使ってると圧力が上がってくることがあるよね。この原因を特定することは難しんだけど,小さな粒子か,充てん剤への吸着の可能性が高い。必ずしも,直るとは限らないんだが,まずは逆流しをして見るといい。カラムに依っちゃしちゃいけないってのもあるんだが,普通は流量を小さくすれば流すことができる。カラムを逆に繋いで,流量を半分にして,1〜2時間流してみる。この時,サプレッサや検出器を繋いじゃ駄目だよ。廃液はビーカーかなんかで受けるといい。これで下がれば,元通りに繋いで,標準を打って,性能確認です。問題なければ続けて使えばいい。
下がらなければ,金属の水酸化物 (陰イオン分析の場合) とか,有機物だね。この場合には,分離も変化していることが多い。こんな時は,若干面倒だけど,エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム (DETA-2Na) の水溶液 (1〜5 mM) を半分の流量で逆流しすると金属水酸化物は洗い出せる。この場合も,サプレッサや検出器を繋いじゃ駄目だよ。その後十分に水洗い,溶離液洗いをして下さいね。有機物の場合には,アセトニトリルを加えた溶離液で洗えばいい。アセトニトリル濃度は取説に従って下さいね。
さて,さっき溶離液で希釈した試料はどうなったかな?振っちゃ駄目ですよ。下に白い沈殿みたいのがあるって。そうですか,当て推量じゃなかったみたいですね。上澄みをそっと吸い上げて,0.2 µmでろ過して下さい。そしたら,数回続けて打ってみますかね。10回でもいいですよ。
何とかうまくいきそうですね。じゃぁ,一寸上野の清水さんにお詣りしてきますよ。取り終わる頃には戻ってきますよ。うまくいっていたら,確認のため,同じように試料を前処理して,もう一度一晩連続を仕掛けて下さいね。仕掛け終わったら,皆で神田の藪にでも行きませんか?随分早いけど,打ち上げを兼ねて年越し蕎麦なんてどうですかな。
陰イオン分析では,炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムの緩衝液系が広く用いられていますが,溶離液組成によっても溶出時間は変化し,溶離液濃度と同様に硫酸とリン酸は大きな変化を示します。
図8-6に,炭酸ナトリウム濃度を固定して,炭酸水素ナトリウム濃度を変化させた時のクロマトグラムを示します。
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