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イオンクロマトグラフで水を測定したらクロマトグラム上に入ってもいない成分のピークがある!?未知ピークが出た時の対処方法について、今回もご隠居さんが楽しく明快に解説しています。

シーズン1 その玖(九)

「明けましておめでとうございます。」

「おや,千駄木のご隠居。おめでとうございます。今年もよろしくお願いしますよ。」

「こちらこそよろしく。護国寺までお詣りにきたんで,ついでといっては何ですが,ご挨拶まで,,,Metrohm さんの裏の『扇』でお弁当を買ってきましたんで,どうですか?」

「いつもすみませんね。暇を持て余してて,そろそろ一人で始めようかと思っていたとこなんで,,,奈良の春鹿があるんですよ。土岩の蒲鉾,出雲十六島の岩海苔と芽の葉もありますよ。」

「春鹿ですか,,,超辛口ですか?岩海苔,芽の葉もいいですな。」

「じゃ,温る燗ってことで,ちょいとお待ちを,,,」

「ご隠居さ〜ん。いらっしゃいますか〜。」

「何だい,続けざまだね。おや,番頭さん。ふ〜ん,Metrohm 組,皆さんお揃いですね。」

「ご隠居さん,明けましておめでとうございます。今年もご指導の程宜しくお願いいたします。」

「何だい,改まっちゃって。はい,おめでとう。今年もお付き合いさせて貰いますから,こちらこそ宜しくお願いしますよ。ところで,皆さんいい恰好してるけど,初詣かい?」

「年賀の挨拶回りですよ。千駄木のご隠居はいなかったんですが,ぐるっとお得意一回りです。ついでに護国寺にお詣りしてきて,ご隠居のところが最後です。」

「そうですか。千駄木のご隠居なら,うちに来てますよ。ぼちぼち始めようかってとこですよ。うちが最後で,後はない,,,それじゃ一緒にどうですか?酒も肴も結構あるからね。」

「ご隠居さん。先月のカラム詰まりの件,無事解決しましたよ。ありがとうございました。」

「ほぉ,やはり溶離液で粒子ができてましたか?そんでもって,それが詰まったんですね。」

「ご隠居さんのご推察通り,シリコン系試料でしたよ。カラム性能も逆流しで元に戻りました。でも,何でカラムは逆で使っちゃいけないんですかね?カラムの使用範囲ってのは,どうやって決まってるんですかね?使用範囲を超えると直ぐ壊れちゃうんですかね?」

「いい質問だね。イオンクロマトグラフ用のカラムがどうやって作られているかなんて,みなさん知る由もないですもんね。色んなことやって,いっぱい壊して,痛い目みると覚えるんだけど,カラムはいい値段するから懐に響くよね。こんな話じゃ酒の肴になりゃしないけど基本の『き』ですね。一年の計は元日にありって云うし,それに今年は若い衆も増えることだから,お話ししときますかな。」

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充填剤の話はその伍にしましたかね。孔がいっぱいある,大きさ5〜10 µmの非常に小さなポリスチレンやポリメタクリレートの粒々 (多孔質粒子) にイオン交換基が導入されたもんですね。これを隙間がないように,内径4〜5 mmのパイプに均一に詰めなきゃならないんだ。こんなもん,乾いた粉のまんまで詰めるなんてできゃしない。そこで,粒々を溶液に均一に分散して懸濁液を作ってね,ポンプで送液してゆっくり充填するんだ。これを高圧スラリー充填法って云うんだよ。カラムの使用範囲は,充填剤自身の特性と充填した時の条件から決まるもんなんだよ。

充填剤を,どのくらいの流量で,どのくらいの圧で詰めるかは,充填剤の性質によって大きく違うんだが,流量は2〜10 mL/min,圧力は10〜20 MPaってとこかな,,,流量と圧力の使用範囲は,充填した時の値の大凡5〜6掛けってとこで,決められているみたいだよ。

けど,大事なことは一方向の流れで詰めているんで,詰まり具合や耐久性に方向性があるってことだ。どういうことかって云うと,流れ方向に対しての力に対しては耐えることができるけど,逆からの力には耐えきれずに,充填状態が壊れてしまう恐れがある。機械もんだってそうだろ?どの方向の力に対しても耐久性の高い設計をするのは難しい。

充填状態がどうなっているのか,どういう時に壊れやすいのかっていうのを理論的に説明するのは難しいんだけど,非常に小さな空洞が空いていると考えるといい。理想的な充填状態は細密充填 (下図a) だってことは知っているよね?けど,こんなこたぁあり得ないから,実際にはバラバラだけど密に詰まっているって考えた方がいい (下図b)。

ここでちょっとばかり厄介な問題がある。どんなもんでも分子や粒子は引き合うって云う性質がある。引き合って固まりになる (凝集) んだ。イオンクロマトグラフ用カラムで使われるイオン交換樹脂は,基材樹脂がプラスチックでその表面に僅かばかりのイオン性の官能基が入っている。表面のイオン性官能基は同じ荷電だから反発し合うけど,粒子同士は本質的に引き合いをするんで,半端な硬さの固まりができちまう。これを無理矢理充填すると隙間 (空隙) ができちまう (下図c)。こんな隙間はどんなカラムにでも絶対あるはずだ。多い少ないはあるだろうけどもね。この隙間は,ちょっとやそっとの圧力では潰れやしない。丁度,眼鏡橋なんかのアーチ構造が頑丈ってのと同じだね。けど,決まった以上の流量や圧力がかかれば壊れてしまうんで,流量や圧力の上限があるんだよ。ちなみに最高使用圧力に関しちゃ,カラムフィルタが目詰まりしていない時の話だよ。カラム圧力は普通に使ってても上がるよね?変な使い方してなくても圧力上限になっちまうこともある。だから,判断基準は使用流量のほうにあると考えていいんじゃないかな。けどね,そこまでカラム圧が上がるってのは,溶離液や試料に問題があるかも知れないけどね。

当然だけどね,アーチ構造は逆からの圧力には全く弱いんで,逆流しはしちゃいけないんだよ。目詰まり解消なんかで逆流しする時は,通常の流量の半分以下にしなきゃいけない。通常の半分以下ってのは,少なくとも充填する時の流量の1/5以下になるはずだから,これを守っていりゃカラムを壊すことはないよ。ここまではいいかな。

もう一つ大事なことは,充填剤の粒がプラスチックってことだ。どういうことかって云うと,有機溶媒中で膨らむ (膨潤) んで,充填状態が変化しちまうかも知れないってことですよ。それで有機溶媒添加濃度の上限が決まっている。これは充填剤の性質にすべて依存してるんで,カラムによって大きく違う。けどね,溶離液に有機溶媒を入れるってことは,疎水性イオンを早く出したいってのが第一の目的でしょ?こんな時のために,親水性基材のカラムが売られているんです。確か,Metrohm さんのA Supp4やA Supp5は親水性基材ですよね。疎水性基材のカラムよりも溶離液も簡単だし,ピークの形状もずっときれいなんで,これらを使うといいと思いますよ。但し,試料によっちゃ有機溶媒を入れなきゃいけないこともありますな。添加濃度の範囲以内で使わなきゃいけないんだが,これも流量や圧力の場合と同じで多少は余裕がある。けど,有機溶媒を添加した溶離液と入れないものとをしょっちゅう取っ替え引っ替えしているとカラム性能が落ちてしまうことが多い。一寸は余分にお足がかかるけど,それぞれ専用のカラムを持つことをお薦めしますよ。

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何となく判りましたかな?取扱説明書の範囲内で使うっていうのが基本です。けど,もしもの時にはこの話を思い出して下さいね。ちなみに,標準だっていう溶離液や条件で使えばカラムの最高性能を出せるって云う訳じゃありません。カラム性能は測定条件によって大きく変化します。この話については,また別の機会にでもお話ししましょうか。

では,また来月。

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

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