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イオンクロマトグラフィに限らず、分析作業において正確な試料の希釈はとても重要です。メスフラスコのメニスカスの見方からマイクロピペットの使い方まで化学実験の基本をご隠居さんがわかりやすく解説しています。

シーズン1 その拾肆(十四)

「ごめんくださいよ。」

「なんだぁ,音羽のご隠居さんか,,,」

「素っ気ないねぇ〜。寛さん。ご機嫌斜めですね。梅雨時はジメジメして,イライラしますね。」

「そんなんじゃないんですよ。急ぎの依頼分析だってんで,お手伝いですよ。試料が100本もあって,そいつを希釈してるんですが,上手く線に合わないんで,,,素人にゃ,辛いですよ。」

「そうだね。ぴったり合わせるのは結構コツがいるかもね。随分進んだのかい?」

「まだ,10本そこいらです。できたもんはセットしたんですが,まだまだ先は長いですよ。」

「一寸手を止めて,話を聞きませんか?たいして時間はかかりませんから。多分,話を聞くと,肩の力が抜けて,上手くできるようになると思うんだが,,,」

「本当ですか?ろ過もしなきゃならないんですよ。」

「ろ過なんかは,直ぐでしょうが,,,それよりも,標線に合わせ込むのに手間取ってるんだろ?ところで,何倍希釈で,どの位の濃度を測ってるんだい?50倍に希釈して,ppm付近ですか。それじゃ,あまり神経を使うことはないね。では,話をして上げますかね。」

「ご隠居さんは気楽ですね。こちとら結構大変なんですがね,,,」

「まぁ,黙ってお聞きよ。」

 

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メスフラスコ (正確には全量フラスコって呼びますが) の精度ってご存じですかね。
ガラス体積計の規格に関してはJISで規定されています。JIS R 3503:1994 化学分析用ガラス器具,JIS R 3503:2007 (追補1),JIS R 3505:1994 ガラス製体積計の3つです。メスフラスコとホールピペット (全量ピペット) の許容差を表にしました。メスフラスコは3桁以上の精度を持っているんですよ。けど,この精度は,標線にメニスカスをきちんと合わせなければ,体積計の精度を確保することはできません。

メニスカスって,お判りですよね。勘違いしていると不味いんで,一寸だけ話しておきますかね。メニスカスってのは,溶液と容器壁面との作用でできる湾曲した液面の形です。「三日月」って意味らしい。ガラスと水の組み合わせだと凹型 (A)です。けど,すべてが凹型になるって訳じゃありません。水に濡れ性がある場合には凹型,撥水性がある場合には凸型です (B)。

このメニスカスを標線に合わせるのは神経がいりますよね。上手く合わなくてイライラして,標線を超えてしまったなんてことは良くありますよね。例え1 mmだって,多く入れてしまえば作り直しです。当然ですよね。棄てるってのは,結構ショックですよね。

だけどね。標線に合わないなんてカリカリするこたぁないんですよ。1 mmや2 mm上になったってたいしたことはありません。どうせ,有効数字が2桁程度の測定なんですからね。

どういうことかって?ぴったり合わせなくても,2桁以上の精度は確保できるってことですよ。下に,標線から10 mmずれた時の誤差を調べたものを示します。どうですか?1 mmのズレであれば,誤差は1%以下ってことなんです。ぴったり合わせるのが基本の「き」なんですけど,過剰に神経を使うことはないんですよ。変に力が入ってるから上手く合わないんですよ。

メスフラスコでの希釈はいいんですけど,問題はホールピペットでの吐き出しですね。ホールピペットの容量が小さくなると綺麗に出せないで先端に液がかなり残ってしまう。特に,1 mL以下の奴は使いにくいですよね。バラツキが大きいので昔は天秤で量ったりしましたが,今はマイクロピペットっていう手がありますよね。マイクロピペットはJIS K 0970にプッシュボタン式液体用微量体積計として規定されています。可変容量式のものと,固定容量式のものの2種が市販されています。それぞれの精度を表3と表4に示します。

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どうですか?可変容量式のものは便利ですけど,精度,再現性共固定式に劣っています。ということで,固定容量式のものを使うようにしてくださいね。固定式のものがなく,可変容量式を使う場合には,天秤で計量精度を確認しておくといいですね。当然ですが,最大計量容量の20%以下の計量はしないでください。

さて,寛さん。ここで勝負してみませんか?マイクロピペットの再現性比べです。天秤と秤量瓶,1000 µLの可変式と10 µLの固定式を持って来て下さい。それと,100 mLのビーカーに純水を入れてきて下さい。1000 µLの可変式を500 µLに設定して,純水を採取し,秤量瓶に入れて天秤で量ってみましょう。10回測定して相対標準偏差の勝負です。同様に,10 µL固定式でもやってみましょう。いいですか?さあ始めましょう。

結果は御覧の通り。経験,腕の差ですかね。平均値はまあまあですが,相対標準偏差がね,,,
けど,少し練習すれば直ぐに良くなりますよ。まぁ,頑張って下さいね。

このようにして量った値を,水温から求めた密度で補正すれば正確な容量が判ります。この時の水温は19°Cでしたから,水の密度は0.9984 g/cm3です。私の平均値から秤量体積を求めてみると,1000 µL可変式500 µL採取時は500 µLぴったし,10 µL固定式は9.97 µLってことになります。可変式のほうはすご〜くいいんだけど,固定式のほうが一寸ばかり良くないね。シールがヘタってんじゃないかね?道具の性にはしたくないんだけど,,,

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今回は,腕比べもしたからよく分かってくれたと思いますが,,,

標線に合わせることが基本なのですが,力が入りすぎるとなかなか合わせることができませんよ。1 mm位はズレたっていいんだって,気楽な気持ちでやったほうがいいと思いますがね。そのほうが上手く標線に合うんじゃないかな。問題は採取のほうですが,1 mLとか,2 mLっていった切りの良い量を採取するようにして下さい。端数を採ろうとするから,ついマイクロピペットに頼ってしまうし,端数なもんだから希釈倍率の計算を間違えたり,ろくなことがありませんね。基本はホールピペットです。しかし,1 mL以下は,吐き出しの繰り返し精度を考えると,マイクロピペットに頼るほうがいいでしょうね。けど,しっかり訓練して下さいね。

ということで,寛さんも随分気が楽になりましたかな。イライラしなければ標線にもぴったり合うようになりますよ。さぁ,頑張って残りをやって下さいね。では,また来月にでもね。

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

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