イオンクロマトグラフィで食品分析、特に有機酸分析を行えます。ホウレン草のシュウ酸とリンゴ酸,レタスや水菜のリンゴ酸,みつ葉のシュウ酸,リンゴ酸,クエン酸の測定などです。葉もの野菜の有機酸成分測定にはイオン排除カラムが有効です。
シーズン1 その貳拾肆(二十四)
「ご免下さ〜い!ご隠居さんおられますか〜!おや,お台所ですか〜?」
「おぅ,清さんかい。シラスのいいのが入ったんで,大根葉とシラスの山椒煮を作ってるんだ。」
「美味そうですね。ご飯にもってこいじゃないですか。後はなんですか?」
「鳥大根に,茸の餡かけ豆腐。それに,鰯の七味焼きだよ!一緒に喰うかい?」
「いいんですかぁ〜!それじゃ,遠慮なく。けど,鰯はご自分でさばくんですか?」
「こんなもん,できないでどうする。鰯は手開きだよ。刃物は使わない。骨も腑も綺麗に取れる。いつもの魚屋がいいのを安く持ってきたんで,つい一杯作っちまった。」
「ご隠居さんは包丁上手いですね。大根葉の刻みが綺麗に揃ってる。あっ,肝心なこと忘れてた。野菜の有機酸を測りたいんですがね。前処理ってどうしたらいいんですかね。別に私がやるんじゃないんですが,ちょいと頭に入れとかないと,,,明日,常陸のほうまで行くんですよ。」
「先月も有機酸だったけど,今度は野菜なのかい?まぁ,暫く待ってくださいな。直ぐにできますから,,,そしたら,一杯やりながら話をしましょうか?白飯もそろそろ炊けるから,,,」
野菜の前処理は余りやったことがないんですが,すべての基本は一緒ですね。まずは,野菜の可食部を採ります。根っこは切り落とし,必要に応じて皮を剥きます。その後,細切⇒ホモジナイズ⇒遠心分離⇒上澄希釈⇒濾過っていう手順で行います。取り敢えず,葉っぱもんを基本に話をしましょうか。 葉っぱは水洗いして泥や汚れを洗い,純水を流してざっと洗います。過剰の水はキッチンペーパー等で優しく拭き取ります。綺麗にした後,根っこを切り落とし,食べる部分だけにします。その後,微塵切りにします。大きさは2〜3 mmで,茎も食べるなら同じように微塵切りです。刻んだ葉っぱをよ〜く混ぜて,均一にします。これが試料です。
ホモジナイズは,普通はホモジナイザーで行うんですが,家庭用のミキサーでも十分対応できます。ミキサーのカップに刻んだ葉っぱ5 gを採って,純水を50 mL (あるいは100 mL) 加え,5分間ホモジナイズします。これで,綺麗な青汁の出来上がりです。この青汁を10 mL採って,約3000 rpmで15分程度遠心分離をかけます。すると,下の方に繊維分が沈降し,ほとんど透明な緑色の上澄が得られます。沈降した成分が入り込まないように,この上澄を50 mLのメスフラスコに採取します。抽出は一回限りで行っていることが多いようですが,私は,もう一回やったほうがいいように思っています。上澄を綺麗に取り出した後,純水10 mL加えて,ミクロスパーテルで超音波をかけながら軽く攪拌し,同じ条件で遠心分離をかけて,同様に上澄を採取します。上澄は,先に採取した上澄と合わせ,50 mLに定容します。この状態で,色が付いていますし,僅かですが繊維も入り込んでいます。この溶液を0.45 µmのメンブランフィルタで濾過して,前処理の完了です。後は,イオンクロマトグラフで有機酸分析です。
結構簡単ですよね。 この方法でも十分分析はできるのですが,気になるのは色と水溶性タンパク質です。これらの成分はカラムに吸着する恐れがありますので,できる限り取り除きたいですね。 ここで固相抽出カートリッジの登場です。タンパク質は一般的な逆相型の固相抽出剤で除去できますが,食物色素は取り除けないものもいっぱいあります。
先月にも書きましたが,カラムに吸着するものを取り除くには,カラム充填剤と同じものを使えばいいんですよ。カラムに吸着するんだから取り除けるはずですよね。しかし,測りたいイオンも吸着しちゃいますので,陰イオン分析や陽イオン分析の場合にはこんなことはできません。けど,イオン排除モードで有機酸分析をする場合には,カラム充填剤と同じ H+型強酸性陽イオン交換樹脂 (ポリスチレン基材) が充填された固相抽出カートリッジを使うことができます。排除されるんですからね。この固相抽出カートリッジを使えば,色素や水溶性タンパク質を除去できます。 固相抽出剤が100〜250 mg充填されたものを選んでください。まずは,固相抽出カートリッジの洗浄です。純水あるいは溶離液を10〜20 mL通液します。その後,固相抽出カートリッジの出口側に0.45 µmのメンブランフィルタを取り付けて,定容した試料10 mLを30秒〜1分位かけて通液します。最初の溶出液2 mL位は捨て,それ以後の溶出液を採取して測定溶液とします。
もう一つ注意すべき点があります。生体内酵素の問題です。酵素が同時に抽出されてしまうと,酵素作用によって成分が変化してしまう可能性があります。そのため,抽出後直ちに測定する必要があります。抽出した試料は,決して保管しないで下さい。酵素の量や作用の度合いは野菜によって異なりますので,このような恐れがある場合は事前に酵素活性を失活させておく必要があります。細切後の試料に10倍量の水を加えて,電子レンジで沸騰寸前まで加熱するとよいという報告があります。酵素を失活させた後,熱いうちにホモジナイズして濾過するそうです。
最後に分離モードの選択ですが,測定対象が有機酸だけの場合にはイオン排除カラムがよいと思います。葉っぱもんの野菜中には色んな有機酸が含まれていますが,主要成分測定であればイオン排除カラムで対応可能です。代表的な野菜中の有機酸としては,菠薐草ではシュウ酸とリンゴ酸,レタスや水菜はリンゴ酸,みつ葉はシュウ酸,リンゴ酸,クエン酸が入っているといわれています。これらの分離はイオン排除カラムで可能です。陰イオン分析用カラムでもある程度分離可能なのですが,クエン酸の溶出時間が非常に遅いというのが難点ですけど,,,
あまり経験のない領域の話なんですが,概ね合っていると思いますよ。こんな感じで何とかなるんじゃないですかね?しかし,奴はよく食べやがったね。鳥大根と鰯の七味焼きは残しておいて,明日もう一度と思ってたんだけどね。立端のある奴は,喰う量も半端じゃないね。スッカラカンですよ。まぁ,美味そうに喰って帰ったんですからよしにしてあげましょうかね。今夜も冷えてきましたから,もう一杯だけ引っ掛けて寝ることにしましょうかね。
では,また。
※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。
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