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イオンクロマトグラフで土壌分析する際の注意点とヒントをご隠居さんが解説します。イオンクロマトグラフで土壌分析をする場合、先ず前処理を行います。土壌試料の前処理はとても重要で分析結果に大きく影響します。

シーズン1 その貳拾睦(二十六)

「ご免下さ〜い!ご隠居さんおられますか〜!」

「おや,大きいのが来たね。寛さんかい。丁度良かった。庭の灯籠の上の珠が落っこっちゃてるんで,載せといてくれないかい?これじゃ,『化け物使い』だね。一つ目小僧も出るかな?」

「ご隠居さん,珠,載せておきましたよ。お引っ越しご苦労様です。」

「なんだい。手伝いにも来ないし,それに手ぶらかい?」

「痛いところを突きますねぇ。一寸,ご相談に乗って頂きたいんで。土の分析なんですよ。」

「お山の土かい?それとも,公園のかい?」

「そんなんじゃないんですよ。肥料とか,畑の土壌とか,腐葉土とかです。」

「ほぉ。一人もんの癖して,清澄のアパートで家庭菜園でもやるってのかい?」

「違いますよ。土壌中の窒素やイオンが,野菜中の硝酸や有機酸と関係があるそうです。」

「まぁ,当然のことだろうね。けど,形態が重要なんじゃないかい?」

「そうですね。取り敢えず,硝酸,亜硝酸,アンモニア,アミン類なんかをみたいそうですよ。」

「他には,ハロゲン類も必要かな。今日は結構暑いからビールでもやりながら話をしますかね。」

 

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土壌成分の分析法に関しては,土壌標準分析・測定法 (博友社) に記載されています。また,土壌汚染対策法の改正に伴い,平成15年 (2003年) 3月6日の土壌汚染対策法に基づく環境省告示第16号〜第21号に種々の分析法が規定されています。重金属や有機物の分析に関しては,これらに従って行うのがよいでしょう。しかし,イオン種,特に無機陰イオンの分析はこれらの試験方法通りって訳にはいかないでしょう。この理由は後にして,まずは土壌の話から,,,

土壌中には,Si,Al,Fe,Ca,K,Na,Mgの順で多く含まれているそうです。その他,Mn,P,S,Ti等も含まれています。これらは金属状態でいるんじゃなくて,酸化物の形で存在しています。金属の酸化物。シリカ,アルミナ,マグネシア,チタニア等です。此奴等は,無機のイオン交換体です。有機物じゃないんイオン交換樹脂じゃありません。シリカやMnの酸化物は陽イオン交換性,マグネシアやFe(II) の酸化物は陰イオン交換性,アルミナ,チタニア,Fe(III) の酸化物は両性イオン交換性です。つまり,土壌には陰イオンも陽イオンも捕まえる能力があるんです。

次は,肥料や腐葉土ですが,これらは植物の栄養源ですな。ご存じのように,植物に必要な元素は窒素,リン (リン酸),カリ (カリウム) ですね。肥料は人工的に作られた栄養剤ですから,3元素のバランスは整っています。当然,植物の種類や生育状況,季節によって配合比の違うものを与えます。一方,腐葉土は,朽ちた葉や茎等,つまり植物由来の有機物が堆積して発酵が少し進んだ状態のものを指します。自然環境でいい状態の腐葉土になるには1〜2年もかかるそうです。この腐葉土の中には,腐植物質というのが含まれています。腐植物質ってのは,国際腐植物質学会や日本腐植物質学会なんてのがあって,難しいものなんだそうですが,,,私の認識では,土壌をアルカリで抽出して出てくるヒドロキシ安息香酸類や桂皮酸類を含んでいる高分子化合物です。そして,抽出液を酸性にして沈殿するのがフミン酸,上澄みに残るのがフルボ酸です。これらは,植物の生育に不可欠である他,重金属の固定等にも役立っています。しかし,飲料水の浄水工程の塩素処理におけるトリハロメタン発生の原因物質とされています。尚,自然にできたものは,成分が窒素に偏っている,半発酵状態なので土中で発酵が進んで土壌が酸性になる,等の問題もありますんで,色んなものを混ぜて人工的に作るっていうことが行われているみたいです。

前置きが長くなりましたが,無機イオンの分析ですが,まず抽出しなければ測定できません。
土壌を乾燥させて含まれている水分を取り除き,篩にかけて異物を取り除くと共に粒子径を揃え,一定量を秤量して抽出を行う,ってことで宜しいですかね?一見正しそうですが,何か変じゃありませんか?乾燥を行ってしまうと,無機イオン (亜硝酸イオン,硝酸イオン,アンモニウムイオン等) の一部は飛んでいってしまいます。イオン交換的に捕まっているとしても,土中にいる水にはこれらのイオンが溶け込んでいます。正確な試料量 (質量) を知ることはできなくなってしまいますが,採取したまま試料とするしかないと云うことになります。ついで,抽出ですが,これも悩ましいところです。上にも書いた通り,無機イオンはイオン交換的に捕まっているので,純水抽出では抽出率が上がりません。陰イオン分析の場合にはアルカリ抽出をしたいのですが,上に書いたようにフミン酸やフルボ酸が一緒に抽出されてしまいます。

此奴等は厄介者なんです。フルボ酸はODS等の疎水性固相抽出剤に吸着するとされていますが,フミン酸は通過してしまいます。そこにきて,カルボキシル基を一杯持っているもんだから,陰イオン交換樹脂 (分離カラム充填剤) に強く吸着してしまいます。ということで,陰イオン分析の場合には,純水抽出しかないと云うことになってしまいます。それでも,フミン酸の一部は抽出されてしまいますので,ガードカラムの使用は必須です。
下記のクロマトグラムは,畑の土壌の陰イオンの測定例です。土壌5 gを50 mLの超純水に入れ,軽く (2分程度) 超音波をあてた後,1時間浸漬静置して無機イオンを抽出しました。抽出液は,0.45 µmのメンブランフィルタで濾過後,測定しています。亜硝酸らしいピークも出ていますんで,紫外吸収検出器も使って2つの検出器で測定をすると良いと思いますね。
陽イオンの場合は,薄い酸で抽出すればアンモニアやアミンの抽出が可能です。但し,重金属も一緒に溶出してきますので,これまたガードカラムの使用は必須です。ちなみに,重金属は原子吸光やICP発光に任せたほうが良いと思いますが,,,
土壌や腐葉土中の無機イオンの正確な定量をするのは困難といっていいかも知れません。しかし,畑の土壌の状態管理や状態変化を知るというのが目的であれば,こんな方法で十分対応できますし,作物中の無機イオンや有機酸との相関も十分取れるような結果は得られると思いますよ。

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ここんとこ,頭を使わせるような質問ばかりですな。経験談を話している時のほうがお酒が美味しんですけどね。だんだん年寄りの出る幕が減ってきたってことですかね?今日は,もう少し荷物を片づけようかと思ったけど,一杯引っ掛けてしまうとやる気がなくなるね。また明日ってことにして,さっさと寝てしまいましょうか,,,

では,また。

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

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