元の言語のページへ戻りました

 

イオンクロマトグラフィも原子吸光も無機分析が得意ですが、前処理方法に注意が必要です。今回はイオンクロマトグラフと原子吸光光度計で測定した結果を比較する際の注意点をご隠居さんが解説しています。

 

シーズン1 その貳拾漆(二十八)

一気に暑くなってきましたね。また,寝苦しい夜が来ますよ〜!高いビルが建ち,木が無くなり,地べたがアスファルトで固められちまって,,,昔は,昼間暑くったって,夜になると結構涼しい風が出てきて,表に出ると気持ちよかったですね。縁台を出して,花火なんかやったりしてね。そうそう,今じゃどうか判らないんだけど,不忍池で納涼大会なんかをやってて,時々連れてって貰いましたね。演芸会や歌謡ショーなんですけど,結構楽しかったですよ。けどね。一つだけ嫌なことがあってね,,,帰りに,近道だってんで,近所の大きな寺の境内を抜けるんですよ。臆病って訳じゃないんですけどね。たまに,居るんですよ。いえいえ,見えはしないんですけど,感じるんです。けど,確実に居るんですよ。あれが,,,


「幽霊を見た又聞きの涼み台」,「幽霊の手持ち無沙汰や枯れ柳」

道具屋に来た客が,ある竈 (へっつい) を気に入って3円で買って帰った。
その夜,丑三 (午前2時) が過ぎた頃,昼間の客が大戸を叩き,「昼間の竈を引き取れ」という。
本来ならば半値の1円50銭で引き取るところだが,あまりにも客の様子がおかしいので,事情をすべて話せば3円を戻してもよいというと,,,
「今夜は何故か寝付けなく,何気なく竈のほうを見ると,竈から青白い火がポット出たかと思うと,痩せた青白い男の幽霊が枕元に来て『金返せ〜ぇ,金返せ〜ぇ!』と何度も言うんだ。幽霊の追い剥ぎなんて初めてだ。気味が悪いからあの竈,取って,取って,取ってぇ〜」
道具屋は竈を引き取り,もう一度店に出すと,直ぐさま3円で売れ,また夜中に叩き起こされたが今度は1円50銭で引き取った。また,店に出すと直ぐに売れ,夜中にたたき起こされ,1円50銭で引き取る。こんなことが何度も繰り返され,仕入れ無しで結構儲かった。
けど,そんな都合のいいことは長くは続かない。ある時から,店の物がパタッと売れなくなった。誰とは無しに,「あの道具屋の物から幽霊が出るらしい」なんて噂が立っていた。
「薄気味悪いから,あの竈を打棄ろう。捨てる訳にはいかないから,1円付けて誰に貰ってもらおうか,,,」なんて,道具屋夫婦が裏の台所で相談をしていると,,,
裏の長屋に住む渡世人の熊さんが,その話を耳にした。丁度出会した勘当された遊び人の若旦那を連れて,1円付きの竈を貰い受け,差し担いで自分の長屋に持っていこうとしたが,,,
非力の若旦那が溝板に躓き,掃きだめに竈の角をぶつけると,白い丸い物が転げ出た。
「わぁッ!幽霊のタマゴ!」
取り敢えず竈を若旦那の家に放り込み,白い包みを開けて見ると,なんと10円金貨が30枚。
二人で折半に。若旦那は吉原に,熊さんは博打場に,,,翌日,一文無しで二人共帰ってきた。
その晩,若旦那の土間の竈から幽霊が出て「金返せ〜ぇ,金返せ〜ぇ!」。
若旦那が幽霊に取り付かれちゃいけないと,熊さんは若旦那の実家から300円を借りてきた。

「この金を幽霊に叩き付けてやる!」
熊さんの勢いに,幽霊はビクビクしながら現れた。

「私は左官の長五郎ってんで,丁半が大好きでね。長五郎ですんで,丁しか張らないんですが,,,ある時これが大当たりで,350円も来ちまったんですよ。何処で嗅ぎつけたのか,金を貸してくれだの,融通してくれだの,これじゃ直ぐに無くなっちまうと思い,竈に埋め込んだんですよ。けど,当たっている時は恐いもんでね。その晩,河豚に当たって死んでしまった。地獄の沙汰も金次第っていいますから,この金を閻魔に渡して極楽に行かせて貰おう思ってね。竈から金を出して貰おうと出て来るんですが,みんな怖がって逃げ出してしまうんですよ。」

「話は分かったよ。けど,全部持ってくってのはないだろ。折半の150円ずつでどうだ!」

「親方,それはヒドいや!私の金ですよ。」

「嫌か。それじゃ出る処にでも出て,話を付けようか?」

「出る処たって,私は行きようがないじゃないですか。しょうがないや。手を打ちましょう。」。

150円ずつに分けたが,博打好きの二人?は,どっちかに押っつけっこしようと賽子を出した。
「さぁ。丁半どっちにする!」

「さっきも言ったように,私は丁しか張らないんで,,,丁だ!」

「いくら張る」

「150円」

「オイ,全部かい?いい度胸だな」

「度胸じゃないですよ。モタモタしていたら夜が明けて,帰らなきゃならなくなるんで,,,」

「いいかい。開けるよ。勝負。五六の半。」

「あ〜〜ぁ。いいときゃ,もう一転がりして,四六って変わるのに,,,」

「幽霊がガッカリしてるってのは,あまりいい形じゃないね!」

「親方,お願いがあるんで,,,もう一回入れてくださいな。」

「それはできねぇ相談だ。お前ぇの方に,銭がないのが分かってんだから,,,」

「エへへ。親方,安心してくださいな。あっしも幽霊だ。決して足は出さねぇ!」

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「ご免下さ〜い!ご隠居さんおられますか〜!」

「番頭さんですか。仕事はもう終わりかい?」

「いえ。また戻んなきゃいけないんですが,一寸聞きたいことがあって,,,」

「何かありましたかな?」

「えぇ。とうに納めた分析屋さんなんですが,,,その先のお客さんの試料を測ったらフッ化物イオンの値が合わないってんで,話を聞きに行ったんですがどうもしっくり来なくて,,,」

「そうですか。吸光光度法との比べっこですね。以前に,シアンの測定で話しませんでしたかね?話さなかったかな?そうかなぁ,,,まぁ,合わないからって不思議じゃないですな。」

「合わないのはいいんですが,,,標準添加して置いといた奴が,添加したときより低くなってるんたそうです。亜硝酸やシアンみたいに,フッ化物イオンが減るなんてことありますかね?」

「そんなこたぁ,普通はないけど。そりゃ,ひょっとして廃水じゃないかい?」

「えぇ,そうですよ。けど,由来は教えてくれませんけど,,,」

「確か,以前にそんなことがあったような。本当のとこは判らんけど,少し考えてみましょう。」

この方法は分離カラムと同じ相互作用で前処理を行っていることになりますので,処理溶液は安心してカラムに注入することができます。但し,長鎖の脂肪酸や芳香族有機酸等の疎水性の強い有機酸は保持されてしまう恐れがありますので,これらを分析対象とする場合には,どの程度回収されるのかに関して詳細な事前試験が必要です。例えば,試料溶液に有機溶媒 (メタノールあるいはアセトニトリル) を添加するとか,標準試料溶液通液後にメタノールあるいはアセトニトリルを添加した溶離液を通液して回収する等に関して調べて下さい。

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

吸光光度法によるフッ化物イオンの測定には,ランタン-アリザリンコンプレキソン吸光光度法が用いられます。ランタンとアリザリン (極大吸収:420nm) との錯体 (極大吸収:520nm) にフッ化物イオンが反応すると565nm付近に極大吸収を持つ青色の複合錯体を形成します。この,複合錯体の吸光度からフッ化物イオンを定量します。この方法では,陰イオンの影響はあまりありませんが,アルミニウム,ジルコニウム,鉄等の金属が共存していると,これらの妨害によってフッ化物イオンを正確に定量することができなくなります。そこで,前処理として蒸留を行い,これらの妨害金属の除去を行うのが一般的です。蒸留は,試料に,二酸化ケイ素,過塩素酸,リン酸を加え,140℃で蒸留します。通常,受器には水を入れておきますが,試料中の塩化物イオンが高濃度のときには弱アルカリ性としておきます。この受器に溜まった留出液を吸光光度法で測定します。

何故蒸留をしなければ行けないかというと,フッ化物イオンは遊離のイオンとしても存在しますが,溶液中の種々の元素と結合して様々な形態をとります。例えば,シリカとはSiF3+,SiF22+,SiF3+,SiF4,SiF62-等,アルミニウムとはAlF2+,AlF2+,AlF3,AlF52-,AlF63-等,さらに鉄とはFeF2+,FeF2+,FeF3等の形態の化合物を生成します。従って,これらの形態の化学物質を生成する共存元素との分離を蒸留によって行っているのです。
残念ながら,イオンクロマトではこれらの化合物すべてを正確に測定することはできません。そのため,蒸留法を前処理とする吸光光度法で得られた定量値のほうが,イオンクロマトでの定量値よりも高い値となってしまうのです。お判り頂けましたか?
でも,イオンクロマトを用いても,吸光光度法と同等の定量値を得ることが可能です。
一つは,蒸留法で得られる留出液を測定すれば,吸光光度法と同じ値を得ることができます。しかし,蒸留自体が50分もかかりますので,吸光光度法の部分だけをイオンクロマトに置き換えてもあまりメリットはありません。敢えてメリットを探すとすると,フッ化物イオンと共に留出してくる塩化物イオンを同時に測れるというとこ位ですかね。
もう一つの方法は,固相抽出です (下図)。試料中にオキシン (8-キノリノール) のアルコール溶液を添加すると,フッ素化合物 (下図ではAlF2+) の金属とオキシンが錯体を造り,フッ化物イオンが遊離してきます。この錯体は疎水性を持っていますので,ODSやポリスチレンゲルが充填された固相抽出カートリッジに処理溶液を通すと,固相抽出剤に錯体が捕捉されます。フッ化物イオンは固相抽出剤に捕捉されませんので素通りします。この固相抽出カートリッジの通過液をイオンクロマトで測定すれば,かなり正確に定量することが可能となります。いかがですかな?

尚,フッ化物イオンを標準添加して暫く保管しておいた試料中のフッ化物イオン濃度が減少したのは,保管中に共存元素と上記のような形態のフッ素化合物を形成したためと思われます。

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 

日頃,何気なくイオンクロマトでフッ化物イオンを測定しているかと思いますが,お話ししました通りフッ化物イオンは色んな形態を作りますんで,廃水や環境水中ではある日無くなっていたなんてことが結構あります。逆に。試料溶液の液性によっては,フッ素化合物が分解して,放っておいたら増えちゃった何てこともあるんです。結構厄介なんですよ。それに,出てくる時間が早いってことは分離が不十分ですから,廻りに色んなものがいて実は重なっていた,何てことも多々あります。いちいち,他の方法で確認するなんてのは大変ですが,こんなことがあるんだってことは頭に入れておいて測定して下さいね。
話は変わりますが,今日のお昼のニュースで「熱中症に注意しろ!」なんて高温注意報が出ていましたね。昔も,暑いときはかなり暑かったんですけど,熱中症なんていわなかったね。水分を取りゃいいっていうけど,ビールじゃ駄目だそうで,逆に危なくなるんだってね。年寄りゃ水分が少ないから,気を付けなやきゃいけませんな。皆さんもお気を付けくださいね。


では,また。

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

 

下記資料は外部サイト(イプロス)から無料ダウンロードできます。
こちらもぜひご利用ください。