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インラインダイアリシスは膜を挟んでイオンだけを抽出するイオンクロマトグラフィの自動前処理法で、試料の前処理にかかる時間と手間を省き、効率を大幅に改善できます。今回はインラインダイアリシスの仕組みをご隠居さんがわかりやすく解説しています。

シーズン1 その参捨壱(三十一)

先月,越後の長岡・十日町に行ってきました。何しに行ったかって,,,何しに行ったかの話は長くなるんで別の機会にしますけど,かえりに前橋で降りて,足利の「一茶庵本店」に行ってきました。常陸・笠間の「一茶庵」にはちょくちょく行くんですよ。序でに,胡桃入りの稲荷寿司,時には岩間の「くりの家」で栗羊羹を買って帰るんですよ。けど,流石に足利の本店,美味しかったですね。何がですって,,,蕎麦ですよ。新蕎麦ですからね。蕎麦くらいで,わざわざ遠出しなくってもと云うかも知れませんが,北関東は,会津や出羽,北海道等と並んで,蕎麦の特産地なんですよ。常陸の金砂郷産なんてのは超一級品です。皆さんも,一度,常陸,下野,上野と蕎麦巡りをしてみたらいかがですか?車じゃなくて,ローカル線 (一部は通勤路線ですが,,,) の水戸線,両毛線に乗って,水戸,笠間,結城,栃木,足利,桐生と,蕎麦と陶器・絹織物の旅なんかもいいですよ。上野発で常磐線と上越線で挟めばぐるっと一回りできますよ。

蕎麦屋で,蒸籠を12枚食べていった客を見て,,,

「凄いねぇ〜。軽く平らげたね。どんだけ食べるんだろう?けど,20枚は無理だろう。」

「そうだ。明日もあの客はきっと来るよ。そしたら賭をやりましょう。一分置いてね。20枚食べられなかったら,一分頂こうって算段ですけど。どうですかね?」

ってなことで,賭をすることにした。翌日,その客を捕まえて,賭を持ちかけると,,,,

 

「蕎麦をどれだけ食べられるかは,体の調子次第ですからね。20枚ですかぁ〜。できるかしら,,,けど,皆さんがそういうんなら,やってみますかぁ〜」

 

しぶしぶ,賭を受けた素振りだが,さらっと食べて一分を持って行ってしまった。

ここで止しゃぁいいのに,次は30枚で一両ってことにしてもう一度賭をした。

 

「体の調子が今一つですけどねぇ〜。30枚ですかぁ〜。皆様に,一両差し上げるってことになっちゃいそうですけど,,,まぁ,やってみましょうかね。」

 

何だかんだといいながらも,簡単に30枚を平らげて,一両持っていってしまった。

すると,それを隣で見ていた人が大笑いしながら,,,

 

「皆さん,あの人を知らないんですかぁ?あの人は蕎麦好きで有名な清兵衛さん。『そば清』って呼ばれてるんですよ。日に35ずつ食べるそうですよ。」

 

「日に35ですかぁ〜。酷い奴だなぁ。よし,明日は50で五両ってことにしましょう。」

 

翌日,50の賭を吹っ掛けられたが,清兵衛さん,一寸考えた。

… 40は軽い,45は何とかなるだろう。けど,50は,,, …

そこで,「今日は,腹の調子が,,,」なんて云って,何とか賭をかわした。

清さん。商いで1ヶ月ほど信州に行っていた。その道中,蟒蛇が猟師を丸飲みしているところに出会した。大きな獲物を丸飲みした蟒蛇が苦しがっていたが,脇にある赤い草を舐め始めた。するとみるみる腹が引っ込んで,ケロッとして何処かに行ってしまった。蟒蛇はいい薬草を知っていると感心したが,ふと思いついてその草を摘みだした。

 

「そうだ!この草を使って賭すれば,五両頂だぁ!」

 

久しぶりに蕎麦屋に顔を出すと,,,

 

「信州で修行してきたそうですね。先日は50で五両って云いましたが,腕を上げたそうですから,10乗せして60ってことでやりませんか?」

 

「そうですね。こないだは調子悪かったんでお断りしましたが,,,やってみますか,,,」

清さん。30,40とサット片付けたが,50を越えた辺りから遅くなり,55ではさすがの清さんも苦しくなった。残り2枚となったところで,縁側に出て風に当たりたいと云い出した。障子の向こうで,何かを舐めているような気配がした。「清さ〜ん」と声を掛けてみたが返事がない。障子を開けて見ると,清兵衛さんは何処にも居なかった。その代わり,蕎麦が羽織を着ていた。それもそのはず,蟒蛇が舐めていた赤い草は,人だけを溶かす薬草だったので,清さん自身が溶けてしまったということでした。

 

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「ご免下さいよ〜!」

「いらっしゃい。神明町のご隠居さん。」

「水天宮って云うから,ついお宮のほうに行ってしまいました。相変わらず馬鹿やってますけど,久々なんで,序でにお詣りしてきましたよ。序でじゃ,御利益が薄かね。ところで,引っ越し。一段落付きましたかな。お〜。以外と広いですね。結構片づいているじゃないですか,,,」

「まぁ,何となく仕事ができるって状態ですが,ラボのほうはまだ完全じゃないんですよ。」

「そうだろうね。試薬に水,装置の調整だって大変だ。ところで,千駄木のはもう来てますか?」

「えぇ。とうにお見えです。」

「音羽の,,,おっと,なかなか慣れないね。神明町のご隠居。どうです?結構いい場所じゃないですか。人形町も近いしさ。帰りに,チョイと行きましょう。」

「私は,山の手側が長いから,上野や浅草,せいぜい神田,日本橋までですよ。人形町はチョイと判りませんね。千駄木のご隠居は,深川のほうにもいたんだから,結構詳しいんでしょ?」

「餓鬼ん頃の話だからね。それほどじゃないけど。少しは判りますよ。ところでね。偶然だけど,今日は透析の機械だけが動いているそうなんですよ。他のは,未だ立ち上がってないそうだけど,学会の準備とやらでこれだけ動かしたそうですよ。そんでね。この間みたいに,番頭さんにインラインダイアリシスの講義を願うことにした。いいですかね?」

「いいですね。理屈は判ってるつもりだけど,実際に見るのは初めてですよ。」

「ぃよっ!番頭先生!宜しくお願い致しますよ!」
 
 
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透析 (ダイアリシス) っていうのは,膜を介して分子を移動させることです。かなり昔からある技術で,硫酸紙,コロジオン,セロファン等の低分子を通すけど高分子を通さない膜 (半透膜) で,タンパク質溶液から塩分や低分子を取り除いていました。人工腎臓の血液透析も同じようなもんです。血液透析は,セルロースの半透膜の両側に静脈血と透析液を流して,不要になった尿素やクレアチニン等の老廃物を除去しています。

大きく分けて,膜を隔てた二つの溶液の濃度差で分子移動をさせる拡散透析と,電気をかけて分子移動を行う電気透析の二つがあります。Metrohm社では拡散透析を採用しています。拡散透析の理屈は非常に簡単です。メンブランフィルタのような多孔質膜の片側に試料溶液を入れ,反対側に純水を入れたとしましょう。イオンのような低分子は膜の孔を通過して純水のほうに行けますが,高分子は抵抗があって自由に孔に入れません。結果として,高分子溶液の中からイオン等を取り除くことができるんです。

 

ここで一つ問題があるんです。イオンが透析液へと動く力は濃度差です。つまり,透析液中のイオン濃度が上昇すると透析能力が無くなってしまうんです。このような場合,新鮮な透析液を流し続ける,あるいは大量の透析液を用いてイオン濃度が上がらないようにすれば,綺麗に透析することができます。しかし,ICでは抜き出したイオンを分析対象としますんで,このような方法だと分析対象のイオン濃度は試料溶液よりも遙かに薄い濃度になってしまいます。という訳で,これまでは低分子分析の抽出処理にはほとんど用いられなかったんです。

ところで,透析液は閉じこめておいたまま,試料溶液を流し続けるとどうなるでしょう。試料溶液をどれだけの時間流すかは後にして,最終的には透析液中の低分子濃度は試料溶液中の濃度と同じになりますよね。この方法を用いると,イオンが希釈されることなく抽出できます。但し,試料溶液が沢山必要になりますけど,,,,

図2に,Metrohm社のダイアリシスセルの構成を示します。透析膜には,通常セルロースメンブレンフィルタを用いますが,イオン交換膜や限外濾過膜も使用可能です。流路はどちらも渦状になっていて,流路の容量は数百µLです。この渦巻き状の流路の片側に試料溶液を流し,反対側には純水を封入します。一般的な試料からの無機イオンの透析は,5〜15分くらいで完了です。片側の流路に試料溶液を流すだけですから,操作も簡単で汚染も生じません。一つ処理をしたら,両方の流路を純水で洗浄すれば,繰り返して使用することができます。

Metrohm社ではこのダイアリシス法をインライン化して,処理溶液の取扱い時での汚染が起きないようにしています。インラインダイアリシス-イオンクロマトグラフのシステム構成は図3の通りです。夾雑成分が少なければ,さらに濃縮カラム法を組み合わせることだって可能です。

 

図4に,ソーセージ中の亜硝酸及び硝酸をインラインダイアリシス-イオンクロマトグラフィーで測定した時のクロマトグラムを示します。ソーセージは包丁で微塵切りにした後,その5 gに純水/エタノール (4:1) を加えてホモジナイズし,水で全量を100 mLにして,遠心分離器にかけました。遠心分離後の上澄をダイアリシス試料としました。亜硝酸イオン及び硝酸イオンの検出は,紫外吸収検出器で行っています。

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論文は読ませて貰ったけど,実際に見ると説得力があるね。この方法は有機物の抽出にも使えるそうです。但し,透析液には有機溶媒を添加する必要があるそうで,有機溶媒の種類によってはポリエーテルエーテルケトン (PEEK) 製のダイアリシスセルを使わなければいけないとのことです。いい勉強をさせて貰いました。さて,結構な時間になりましたので,繰り出しましょうかね。根津・池之端も良かったですけど,人形町も楽しみですな。家からは遠くなりましたが,Metrohmさんも,いいところに引っ越してくれたもんです。千駄木のご隠居さん,番頭さん,そろそろ動きますよ〜!

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

 

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