固体試料のハロゲン分析や硫黄分析に最適な燃焼法イオンクロマトグラフィ(燃焼法ICシステム)について、ご隠居さんが詳しく解説しています。
シーズン2 その参(三)
「ごめんくださいな。番頭の泰さんはおられますかな?」
「あぁ~,ご隠居さん。お待ちしてましたよ。早速ですが,ラボのほうにどうぞ…」
「お邪魔しますよ!やぁ,喬さん,先日は…おやっ,清さん!お久しぶり。お元気そうで…おぉっ,これですかぁ~,燃焼イオンクロマトってのは?清さんが担当だそうで。一寸見せてくださいな。」
「一寸なんて云わずにごゆっくり。」
「清さん。こいつぁ,液体もできるんだってね?液体もこのボートに入れるんかい?」
「いやぁ,液体はバイアルですよ。オートサンプラのトレーをこうやって入れ替えて,ここのボート用のグリッパをマイクロシリンジに付け替えるんですよ!」
「ほぉ~,意外と簡単だね。いいじゃないですかぁ~。これだと,プラスチックみたいな個体だけじゃなく,オリゴマーや油等も測れるんだね。でも,待ってくださいよ。油なんかじゃ,沸点も低く,煤も出やすいんで,きれいに燃やすのは難しいんじゃないんですかね?」
「そこがうまくできているんです!フレームセンサー…っていっても光センサーなんですがね。それで燃焼状況を見て,燃焼ボートの位置を調節するんですよ。」
「ほぉ。良くできてるね。けど,それじゃ燃焼時間が結構伸びそうだね?」
「いや。逆ですよ。ふつうは,多段階の温度プログラムを組んで,暴走しないようにゆっくりと燃やすんですけど,この方法だとかえって短くなるんですよ。」
「ふ~ん,そんなもんかねぇ~。けど,暴走少し手前で燃やしてりゃ,早くなるような気もするね。」
「実際に速くなるし,再現性も良くなりますよ。他にも,Dosinoが2台入っているので,吸収液の量は可変で正確だし,ICには可変注入ができますし,ライン洗浄も丁寧にやっているし…」
「機能的には問題なしですな。しかし,吸収液の過酸化水素の影響があるんで,フッ化物イオンの定量性が心配ってことになるんじゃないかい?何かやらなきゃ,再現性なんて…」
「鋭い指摘ですね。濃縮カラムを使ってインラインマトリックス除去をしていますので,ウォータディップ周辺の変動が出にくくなっています。それに炭酸ガスの影響に対しては,例の炭酸サプレッサがありますんで,再現性や測定精度には自信があります。」
「う~ん,こりゃよくできてるね。恐れ入谷の鬼子母神ですな。装置のほうは納得しましたんで,今日は,燃焼法の基礎について復習しましょうかね。」
Metrohmさんでは燃焼イオンクロマトとしてシステムを販売していますが,燃焼部分はICに導入するための前処理法とみることができます。ということで,前処理という視点から,燃焼法の有用性について考えてみましょう。
いうまでもなく,ICの測定対象はイオンです。分離機構はイオン交換モードですので,試料の液性は必然的に水溶液ということになります。
皆さんご承知のことと思いますが,ICに注入 (導入) してはいけない試料というのを下記にまとめておきました。当然,例外もありますし,下記以外のものでも注入できないものもあります。従って,シーズンII第貮話に書きました試料に関する事前調査が必要になります。これらに関しては,機会を見て細かくお話をしたと思います。
要点は,①の気体試料,固体/粉体試料ですね。これらの中のイオン性成分を液体に移行させればICで測定可能なのですが,さてどうしましょう?
気体はイオンとなる成分を溶解可能な吸収液中に試料となる期待をバブリングさせて吸収させればいいですね。一方,固体/粉体は溶解すればいいんですが,,,けど,プラスチックやゴム,木材,鉱物等,水に溶けないものが多々ありますね。固体内部に存在するイオン性成分を抽出するというのも困難ですね。ここで,燃焼法の登場です。
プラスチックやゴムの構成元素は,炭素を主成分として,硫黄,ハロゲン,窒素などです。これらの元素が燃焼すると,下記に示すようなガス (気体) が発生します。これらのガスは水に溶解させることが可能です。つまり,目的物質 (主に固体) を高温下で燃焼させて,発生したガスを適切な吸収液 (水,アルカリ性溶液,過酸化水素添加水溶液等) に吸収させればICに注入可能な試料を調製することが可能となります。燃焼法は,ICの前処理手法の一つということなんです。
燃焼方法にはいろいろとあります。Schöniger フラスコ燃焼法,Parr-Bomb法,Wickbold装置等ですが,フラスコ燃焼法 (下図) が最も広く使用されていたように思います。
フラスコ燃焼法の原理は非常に簡単なのですが,再現性良いデータを得るには熟練が必要です。そこで,これらの操作を自動化した燃焼装置が開発されました。
計量された測定試料は石英ボートに入れられて,加熱炉内の石英管に運ばれて,数100℃~1200℃で燃焼されます。この時,酸素とアルゴンの混合ガスが送られて,燃焼を進めると共に,発生したガスを吸収液に送ります。生成ガスを吸収した溶液 (吸収液) は電位差滴定装置やICで測定されます。一般に,ハロゲン (フッ素,塩素,臭素) と硫黄が測定対象元素です。
この手法はプラスチックやセラミックス中の元素分析法としていくつかのJISに採用されています。
燃焼ICの測定例を少しお見せしましょう。
燃焼ICの測定精度の確認は,元素組成が明確な有機化合物あるいは定量結果が表記された認証標準物質 (CRM) を測定することにより行われます。ここでは,次の有機化合物及び認証標準物質のポリエチレンの測定例を示します (図2a) 及びb) )。
どうですか?結構いい結果ですよね?回収率はともかく,再現性が良いのが驚きですな。
同様の条件で,電子基板の材料を測定したときのクロマトグラムを図2-c) に示します。定量結果と再現性は下の表2です。
ここで,窒素はどうなったの?という方もおられると思います。図2のクロマトグラムには亜硝酸イオンと硝酸イオンのピークが観察されます。しかし,これらのピークを基にしても正確な定量を行うことができません。というのも,窒素酸化物の水への溶解度が低いため,発生した窒素酸化物ガスを完全に吸収させることができないんです。主な気体の水への溶解度を表3に示します。
どうですか?二酸化硫黄 (硫酸ガス) に比べると一酸化窒素NOの溶解性の低さが判りますね。二酸化窒素NO2は水と反応して容易に硝酸になりますが,一酸化窒素から二酸化窒素になるところが律速なので,通常の燃焼条件では窒素含量を求めることは困難ということです。
次いでですが,窒素の酸化物はちょっと変わった性質を持っています。硝酸は酸化性が強く,多くの金属を溶解します。金属を酸に溶解すると水素H2が発生しますが,希硝酸の場合には一酸化窒素NOが発生するんですよ。濃硝酸の場合には,主に二酸化窒素NO2が発生するんです。
「ご隠居さぁ~ん!もう行きますョ!」
「えっ!もうそんな時間ですかぁ~?ちょいと面白い話なんで,ついつい長くなってしまいましたな。もう少し書きたいところですが,すこし下調べも必要だしね。まぁ,何とか区切りがついたんで,行きましょうか。夜の人形町なんて,何年ぶりですかね。ワクワクしますな!」
燃焼法の話はまた機会を見てということで,次回はもう少し基礎的で一般的な前処理の話にでもしましょうかね。では,また…
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※ご隠居達の四方山話 シーズンII 第貮話 「本当の未知試料なんてありません!」
※ご隠居達の四方山話 シーズンI 第貳拾漆話 「難燃剤の分析」
※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。
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