パーム油はアブラヤシ(Elaeis guineensis)の果実から採れる食用油で、アブラヤシの木は熱帯地方でしか育たちません。アブラヤシはアフリカ原産ですが、東南アジアに持ち込まれたのはほんの1世紀ほど前のことです。現在、インドネシアとマレーシアのアブラヤシ農園は、世界中で使用されるパーム油の85%以上を供給しています [1]。
高品質の粗パーム核油と粗レッドパーム油は加工され、様々な製品に使用されます。各種産業で使用されるパーム油の一定の規格を満たすためには、スクリーニングと品質管理が重要となります。そのための簡単な方法の一つが近赤外分光法(NIR) です。
パーム油の用途は?
パーム油は、ピザ、インスタントラーメン、アイスクリームなどのお菓子から、デオドラント、シャンプー、歯磨き粉、口紅などのパーソナルケアや化粧品に至るまで、包装された消費財の50%以上に含まれています [2]。セッケンや洗剤のような洗浄剤も例外ではありません。このどこにでもある油は、世界の多くの地域で家畜の飼料やバイオ燃料としても使用されています(図1)。
アブラヤシからは2種類の油が生産されます。粗パーム油(または粗レッドパーム油)は果肉を圧搾して得られ、粗パーム核油は果実の中心にある種子(石とも呼ばれる)を圧搾して得られます(図2)。
パーム油の加工:粉砕と精製
図 3 は、パーム油の製粉および精製プロセスを示しています。果実を粉砕した後、得られる粗パーム油 (CPO) は、赤色を示します。これは、ベータカロチンの含有量が多いためです。精製、漂白、脱臭された粗レッドパーム油 (つまり、RBD パーム油) は、カロテノイドが含まれないため、淡黄色または無色です。
粉砕後、粗パーム油は分留されます。これは、粗パーム油 (CPO)の固体物(パームステアリン)と液体物(オレイン)の画分を得るための結晶化と分離の両工程を含みます。これらの画分からは、溶融と脱ガム工程によって不純物が取り除かれます。
オイルはさらに精製されます。濾過し、漂白して香りと着色を取り除き、最終的に粗レッドパーム油 (RBD パーム油)と遊離脂肪酸を生成します。粗レッドパーム油 (RBD パーム油)はさらに分画され、食用油や他の製品の原料として使用されます。
パーム油の品質管理
パーム油は、その製造過程において、品質管理 (QC) の目的でモニターできる段階が数多くあります。近赤外分光法(NIR)は、パーム油製造中の品質管理 (QC)だけでなく、パーム油を調達し、他の製品に使用する前にその品質を評価する必要がある企業にとっても非常に重要な方法です。
このコラムで示しているように、近赤外分光法(NIR)を用いると、品質管理 (QC)の作業とコスト効率が向上します。残りの部分では、近赤外分光法(NIR) の簡単な概要を示し、その後にパーム油業界での適用例を示しています。これらは、パーム油生産者が 品質管理 (QC)ワークフローに 近赤外分光法(NIR) を実装することでどのようなメリットが得られるかを示しています。
近赤外分光法 (NIR) はどのように機能するのか?
光と物質はあらゆる方法で相互作用します。しかし、分光法(NIRなど)で使用される光は、通常、印加されるエネルギーではなく、波長または波数によって記述されます。NIRスペクトロメーター(例:Metrohm DS2500 Liquid Analyzer)はこの相互作用を測定し、サンプルからスペクトルを生成します(図4)。
この分析技術は、サンプル内の特定の官能基(-CH、-NH、-OH、-SHなど)の存在に非常に敏感です。そのため、近赤外分光法(NIR)は、水分含有量、遊離脂肪酸(FFA)、よう素価(IV)、脱色劣化指数(DOBI)など、パーム油の化学パラメータを定量化するのに最適です。光と物質の相互作用もサンプルによって異なります。これにより、物理的・レオロジー的パラメータ(密度や粘度など)を測定することもできます。この豊富な情報は、単一のNIRスペクトルに含まれているため、迅速なマルチパラメータ分析に適しています。
測定モード
近赤外分光法 (NIR) の測定モードはサンプルの種類によって異なります。パーム油などの液体サンプルの分析には透過モードが最適です (図 5)。この場合、NIR 光は吸収されながらサンプルを通過します。吸収されなかった NIR 光は検出されます。
近赤外分光法(NIR)を用いるメリット
品質管理に近赤外分光法 (NIR) を用いることの2つの大きなメリットは、サンプル測定の簡便さとスピードであることは明らかです:
- 迅速な測定技術 - 1分未満で測定結果が得られます。
- サンプルの前処理が不要 - サンプルをそのまま測定します。
- サンプルあたりの分析コストが低い - 分析に試薬は不要です。
- 環境にやさしい - 分析廃棄物を出しません。
- 非破壊分析 - 分析後のサンプルは再利用可能です。
- 簡単な操作 - 経験の浅いユーザーでもすぐに測定できます。
二次分析技術としての近赤外分光法 (NIR) の詳細については、以前のコラムをご覧ください。
Benefits of NIR spectroscopy: Part 1
Benefits of NIR spectroscopy: Part 2
品質管理のための近赤外分光法(NIR)のASTMへの適合
ASTM E1655: Standard Practices for Infrared Multivariate Quantitative Analysis /赤外線多変量定量分析の標準的なプラクティス
「これらのプラクティスは、物質の物理的または化学的特性を測定するために使用される赤外分光分析装置の多変量校正のガイドを網羅しています。近赤外線 (NIR) スペクトル領域 (およそ 780 ~ 2500 nm) から中赤外線 (MIR) スペクトル領域 (およそ 4000 ~ 400 cm-1) で実施される分析に適用できます。」
近赤外分光法 (NIR) 分析の代表的なアプリケーションとパラメータ
パーム油製品は、化学的および物理的特性を測定するために、多くの標準化された試験方法があります。ラボ試験は、研究開発および品質管理に不可欠な部分です。表 1 は、さまざまな形態のパーム油 (例: 粗パーム油 (CPO)、粗パーム核油 (CPKO)、精製、漂白、脱臭 (RBD) パーム油) の品質管理に最も関連のある測定パラメータを示しています。
表 1. パーム油製品のQCパラメータの多くは、化学試薬、熟練した分析技術者、サンプル調製を必要とする従来のラボ分析技術によって測定されています。近赤外分光法 (NIR) はこれらのパラメーターを1分以内に測定できる代替技術として適しています。
パラメーター | 従来法(一次分析法) |
---|---|
水分 | カールフィッシャー水分測定法 |
遊離脂肪酸 (FFA) | 滴定法 |
よう素価 (IV) | 滴定法 |
脱色劣化指数 (DOBI) | 吸光光度法 |
カロテン | 吸光光度法 |
近赤外分光法 (NIR) : パーム油分析のためのターンキーソリューション
メトロームは、よう素価 (IV)、水分、遊離脂肪酸 (FFA) 含有量の測定にすぐに使用できる事前検量線モデルを備えたパーム油分析用のターンキー ソリューションとしての近赤外分光法(NIR) を提供しています (表 2)。粗パーム油 (CPO)、粗パーム核油 (CPKO)、または精製、漂白、脱臭 (RBD) された粗パームステアリンまたはオレインなどの製品の分析には、それぞれ異なる特定の事前検量線が専用に用意されています。これらの事前検量線モデルにより、このターンキー ソリューションはメソッド開発なしですぐに使用できます。
表 2. パーム油製品用のメトローム 近赤外分光法 (NIR) 事前検量線モデル(測定範囲と交差検証の標準誤差(SECV)付き)
パラメーター | 粗パーム核油 CPKO |
粗パーム油 CPO |
粗レッドパーム油 RBD |
|
---|---|---|---|---|
遊離脂肪酸 (FFA [%]) | 測定範囲 | 0–4 | 2.5–6 | 0–0.25 |
交差検証の標準誤差 (SECV) | 0.11 | 0.26 | 0.03 | |
水分 [%] | 測定範囲 | 0–0.3 | 0–0.3 | 0–0.1 |
交差検証の標準誤差 (SECV) | 0.03 | 0.05 | 0.01 | |
よう素価(IV) | 測定範囲 | 7–19 | 49–53 | 21–63 |
交差検証の標準誤差 (SECV) | 0.27 | 0.22 | 0.56 |
DS2500 Liquid Analyzerによる粗パーム油の分析結果を表 3 に示します。近赤外分光法 (NIR) で測定されたすべての成分は、堅牢な相関を示しています。さらに、すべてのモデルにおいて、交差検証の標準誤差 (SECV) の値は、校正の標準誤差 (SEC) に近い値です。
表 3. 近赤外分光法 (NIR) による粗パーム油(CPO)の多成分分析の例
Figures of merit | 遊離脂肪酸 FFA |
よう素価 IV |
水分含量 Moisture content |
脱色劣化指数 DOBI |
カロテン含量 Carotene content |
---|---|---|---|---|---|
相関関係 R2 |
0.835 | 0.911 | 0.638 | 0.842 | 0.677 |
校正の標準偏差 SEC |
0.266% | 184 mg/100g | 0.046% | 0.17 | 22.9 µg/g (ppm) |
交差検証の標準誤差 SECV |
0.270% | 210 mg/100g | 0.047% | 0.19 | 23.4 µg/g (ppm) |
結論
近赤外分光法 (NIR) は、粗パーム油 (CPO)、粗パーム核油 (CPKO)、粗レッドパーム油 (RBD) のいくつかの重要な品質パラメータの分析に最適です。 近赤外分光分析装置 1 台だけで、ほんのわずかな時間で複数の 品質管理(QC) パラメータを測定できます。
一次分析法(滴定法、カールフィッシャー水分測定法、吸光光度法)を用いたパーム油サンプルの分析には、最大30分近くかかることがあります。従来の湿式化学法による分析には、化学試薬、サンプル前処理、複数種類の分析装置、熟練した分析技術者が必要であるのに対して、近赤外分光法 (NIR) によるパーム油のマルチパラメーター分析の測定時間は1分もかかりません。測定結果が出るまでの時間が早く、サンプル前処理が不要なため、より高いサンプルスループットが可能になります。また、時間の節約だけでなく、化学薬品が不要なため、サンプルあたりのコストも削減できます。
参考文献
[1] WikiCorporates. Palm Oil Industry. https://www.wikicorporates.org/wiki/Palm_Oil_Industry (accessed 2023-09-07).
[2] World Wildlife Fund. Which Everyday Products Contain Palm Oil?. Palm Oil. https://www.worldwildlife.org/pages/which-everyday-products-contain-palm-oil (accessed 2023-09-07).