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紙を作るのに、葦、亜麻、綿、さらにはバガス(サトウキビパルプ)など、あらゆる種類の材料を用いることができますが、ほとんどの紙は処理された木材繊維から作られています。この目的のための木材の加工は、パルプ工場や製紙工場で行われ、化学薬品と大量のエネルギーが使われています。スクリーニング(選別)と品質管理(QC)は、木材から製紙製品に至るまで、製造工程全体で講じるべき重要な工程です。このコラムでは、近赤外分光法(NIRS)がパルプと紙の製造工程において、いくつかの重要なQCパラメータを同時にモニタリングできることを説明します。

 

 

パルプ・製紙業界について

パルプ、製紙業界は、さまざまな種類の木材から得られるセルロースベースの製品を生産して販売しています。パルプ、製紙工場では、機械的または化学的方法により木材を加工し、あらゆる用途のさまざまな紙製品を生産しています。

図1は、2019年の世界の製紙・ティシュ・板紙の国別生産シェアを示しています[1]。中国が最大のシェアを占め、米国、ブラジル、日本が続きます。これら5カ国で世界の生産量の半分以上を占めています。

図 1. 2019年の世界の製紙、ティッシュ、板紙の国別生産量 [1]

紙の原料である木材は、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成されています。微細構造の違いにより、樹木は針葉樹と広葉樹に分類されます。針葉樹(針と球果を持つ、松、モミ、トウヒなど)は軟木で構成されています。落葉樹(葉と種子を持つ、オーク、ブナ、クルミなど)は広葉樹 (堅木) です。

広葉樹 (堅木) は繊維が短いため、紙の強度は低くなります。しかし、最終製品はより滑らかで不透明になり、印刷用紙に適しています。針葉樹 (軟木) は長くて強い繊維を持ち、紙に強度を与えます。この種類の木材は、段ボール箱やその他の梱包材の製造によく使用されています。

パルプと製紙の製造工程

パルプおよび製紙の製造プロセスは、原材料の準備、パルプ化、漂白、製紙という 4 つの主要な工程から構成されます。各工程については、以下のセクションで説明します。プロセス全体の概要を図 2 に示します。

原材料(木材)の準備には、通常、サイズ縮小、樹皮剥ぎ、チップ化、ふるい分けが含まれます。

その名が示すように、樹皮剥ぎは、樹皮がパルプ化工程における不純物となるため、チップ化の前に丸太から樹皮の外側の層を取り除きます。樹皮剥ぎの後、丸太はチッピングマシンに通されます。これにより、パルプ化工程の効率を最大限に高めるために、一定のサイズと形状の木材チップが生成されます。

原材料の準備の最終段階は、木材チップのふるい分けです。小さすぎたり、または大きすぎる木材チップは、取り除かれて、エネルギー回収に使用されるか、さらなる処理に送られます。

化学パルプ化の過程では、リグニンとセルロースの結合が分解されます。これは、さまざまな化学物質を使用した高圧蒸解釜で行われます。木材パルプ化に最もよく使用される方法はクラフト法です。

«ホワイトリカー»と呼ばれる水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムの水溶液がリグニンを選択的に溶解します。2~4時間後、混合物は高圧蒸解釜から排出されます。パルプは洗浄され、副産物(«ブラックリカー»、パルプ化薬品、木くず)と分離されます。

この処理されたパルプは、工程のこの時点では「ブラウンストック」と呼ばれ、漂白する準備が整った状態です。

漂白は、製紙製品の最終用途に応じて、さまざまな組み合わせで処理パルプに化学薬品を添加します。

最も一般的な漂白化学薬品は、塩素、二酸化塩素、過酸化水素、酸素、苛性ソーダ、次亜塩素酸ナトリウムです。しかし、ダイオキシン、フラン、クロロホルムなどの塩素系副生成物の生成に対する懸念から、漂白工程における塩素系化学薬品の使用は避けられています。

この工程からの排水はタンクに集められ、洗浄水として他の工程で再利用されるか、廃水処理に回されます。

パルプ調製には、スラッシング、機械的前処理、品質の異なるパルプのブレンド、フィラーやその他の添加物の添加などが含まれます。その種類は製紙の品質によって異なります。

図 2. 一般的なパルプと製紙の製造工程図.

消費者に信頼される高品質の製紙製品を生産するためには、製造工程の前後で様々な品質管理パラメータをスクリーニングしモニタリングすることが重要です。近赤外(NIR)分光法はパルプと製紙の製造の全工程の品質管理に使用できる手法です。このコラムでは、近赤外(NIR)分光法が一般的にどのように機能するかを説明し、木材パルプの例を用いて、パルプ・製紙産業におけるQCとスクリーニングにおいて近赤外(NIR)分光法が他の方法よりも優れていることを示します。

近赤外(NIR)分光法の概要

光と物質は様々な方法で相互作用します(吸収、反射、散乱、発光、透過など)。分光法で使用される光については、一般的に波長または波数で表されます。Metrohm DS2500 Solid Analyzerのような近赤外分光計は、光と物質の相互作用を測定することにより、情報満載のスペクトルを取得できます(図3)。

図 3. 近赤外光と紙サンプルとの相互作用から得られた近赤外スペクトル. 水分、セルロース、水酸基含量に起因するピークに注目してください.

特定の官能基の存在に対する近赤外(NIR)分光法の感度は、含水率(水分)カッパー価リグニン含量樹脂含量などの化学的パラメーターを定量化する優れた方法となります。この相互作用はサンプルマトリックスにも依存するため、物理的パラメータ(密度強度など)の検出も近赤外(NIR)分光法で可能です。

得られたスペクトルに含まれるサンプルに関する膨大な情報量は、近赤外(NIR)分光法を迅速なマルチパラメーター分析に理想的なものにしています。

木材パルプと製紙製品の近赤外(NIR)分光測定モード

どの近赤外(NIR)分光測定モードを使うかはサンプルの種類によって異なります。木材パルプや製紙製品のような固形物を分析する場合は、拡散反射モードを使用する必要があります(図4)。この測定モードでは、サンプルはNIR光にさらされ、その一部を吸収します。吸収されなかった近赤外光は反射して戻り、検出器で測定されます。

図 4. a) 固体サンプルの測定は通常、サンプルカップで行われます。b) 測定モードは拡散反射と呼ばれ、サンプルが光にさらされ、拡散反射光が吸収されます。

製紙メーカーが、近赤外(NIR)分光法を利用するメリット

近赤外(NIR) 分光法は、品質管理とスクリーニングにおいて、ユーザーに多くのメリットを提供します。時間とコストの節約は、さまざまな理由から、最も大きなメリットの 1 つです。サンプルの準備は不要で、測定結果は数秒で得られます。近赤外(NIR) 分光法 はマルチパラメータ分析技術であり、同じ結果を得るために異なる種類の分析装置で時間のかかる分析を複数回実行する必要がなくなります。この測定技術は非破壊的であり、化学試薬を使用することもありません。

これらの点以外にも、近赤外(NIR) 分光法はASTMのような標準化機関によって品質管理の目的でも承認されています[2]。さらに、近赤外(NIR) 分光法はユーザーフレンドリーであり、技術者でなくても操作できるため、より複雑な分析技術とは一線を画しています。

パルプおよび製紙生産における製品スクリーニングとQCパラメータ

研究、開発、品質管理はすべてラボでの試験に依存しています。パルプ・製紙工場では、原料、中間製品、最終製品の物理的・化学的特性の測定に、いくつかの標準化された試験方法を用いています。紙パルプ製品のスクリーニングと品質管理に最も関連性の高い試験パラメータを表1に示します。

表1. 製紙・パルプ製品の各種スクリーニングおよび品質管理パラメータ、 分析に使用される代表的な分析方法.

工程 パラメーター 代表的な分析方法.
原材料分析 かさ密度 密度測定法
水分含有量 カールフィッシャー水分測定法
遺伝子改良のための研究:
パルプ収率 重量測定法
セルロース含有量 重量測定法
リグニン含有量 加水分解/ 重量測定法 / 測光法
化学パルプ化と漂白 リグニン含有量 加水分解/ 重量測定法 / 測光法
セルロース含有量 重量測定法
樹脂含有量 高速液体クロマトグラフ法 (HPLC)
カッパー価 滴定法
破断強度 ショートスパン圧縮試験法  (SCT)
座屈強度 リングクラッシュ試験 法 (RCT)
張強度 張力測定法
パルプフリーネス カナダ標準フリーネス試験法 (CSF)
リカーと粗製トール油 滴定法
最終製品QC 水分含有量 カールフィッシャー水分測定法
紙重量 重量測定法
灰分含有量 灰化-重量測定法
シリコンレベル ガスクロマトグラフ法 (GC)
広葉樹/針葉樹の比率 顕微鏡検査法
コーティング層 測光法

パルプ・製紙分析のためのターンキー・ソリューション

パルプ分析用のMetrohm NIRSソリューションには、カッパー価密度座屈強度破断強度引張強度パルプフリーネスを測定するための、すぐに使える事前検量線モデル付属しています(表2)。このセットにより、このソリューションは、事前にメソッドを開発することなく、ターンキーのスターターモデルとして使用することができます。

表 2. パルプ製品の主要な品質パラメータの分析に利用可能な NIRS 事前検量線.

パラメーター レンジ 交差検証の標準誤差 (SECV) R2
密度  [g/cm3] 0.2–0.65 0.039 0.855
座屈強度 [MPa] 20–94 7.4 0.821
破断強度 [MPa] 6–32 2.6 0.828
引張強度 [MPa] 6–68 5 0.905
カッパー価 0–175 3.8 0.996
パルプフリーネス [mL] 130–800 72 0.766

表 3 は、加工木材パルプの品質管理の測定結果を示しています。この例では、可視-近赤外分光法 (Vis-NIRS) によって、木材パルプの 6 つの異なる QC パラメータ (カッパ価、密度、パルプフリーネス、破断強度、座屈強度、引張強度) を同時に測定できることを示しています。

表 3. Vis-NIRS を使用した木材パルプの多成分分析の例

パラメーター
性能指数
R2 検量線の標準誤差 (SEC) SECV
カッパー価 0.986 2.9 mg 3.0 mg
密度 0.903 0.0292 g/cm3 0.0308 g/cm3
パルプフリーネス 0.785 68 mL 71 mL
破断強度 0.803 2.5 MPa 2.6 MPa
座屈強度 0.768 7.2 MPa 7.4 MPa
引張強度 0.875 5 MPa 5 MPa

まとめ

製紙・パルプ製品の品質管理とスクリーニングに近赤外(NIR)分光法を使用することは、他の従来の標準的な検査方法よりも優れています。この分光法は生産者の時間を節約し、高品質の製品を保証するだけでなく、環境にやさしく使いやすです。1回のスキャンで複数の主要な品質パラメータの同時分析が可能です。

木材パルプのカッパー価、密度、パルプフリーネス(CSF)、破断強度(SCT)、座屈強度(RCT)、引張強度の測定結果は、技術者でなくても30秒で得ることができます。他の試験技術よりも頻繁にデータが得られるため、生産管理をより厳密に行うことができます。

参考文献

[1] Statista Research Department. Paper production global capacity share by country. Statista. https://www.statista.com/statistics/664968/global-paper-production-capacity-share-by-country/ (accessed 2023-11-23).

[2] ASTM International. Standard Practices for Infrared Multivariate Quantitative Analysis; ASTM E1655-17; ASTM International, 2018.

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作成者
Guns

Wim Guns

International Sales Support Spectroscopy
Metrohm International Headquarters, Herisau, Switzerland

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Lanciki

Dr. Alyson Lanciki

Scientific Editor
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