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Q41:サプレッサーはどのような働きをするのですか?

A41:溶離液のバックグランド電気伝導度を低減すると共に,測定対象イオンの当量電気伝導度を増加させて,高感度検出を可能とします。
イオンクロマトグラフの特長はサプレッサーであると言っても過言ではありません。サプレッサーはその名の通り溶離液のバックグランド電気伝導度を抑制 (sapuression) して,微量のイオンを検出しやすくするための道具です。
水酸化ナトリウムを溶離液としたときの陰イオン分析を例に取り,バックグランドの抑制機構を説明します。
分離カラムから出た溶離液 (NaOH) は,H+型の陽イオン交換樹脂 (├SO3H) が充填されたサプレッサーに入ります。サプレッサーの充填剤は陽イオン交換樹脂ですので,Na+を捕まえ,その代わりにH+を放出します。H+はOHと結合し,電気伝導性のない水になります。このようなイオン交換反応により,溶離液のバックグランド電気伝導度が低減されます。

溶離液       NaOH  + ├SO3H  →  H2O   +    ├SO3Na

[極限モル伝導率]   50+199                                        [0]
                                            [249]


一方,測定対象である陰イオンは,溶離液中ではNa+と対を組んで移動していますが,サプレッサー中でイオン交換され,対イオンがH+に変換されます。H+は,極限モル電気伝導度が非常に高いイオンですので,Clの対イオンがH+に変換されることで3.3倍ほど増感することとなります。


溶離液       NaCl  + ├SO3H  →  HCl   +    ├SO3Na

[極限モル伝導率]   51+76                                        [0]
                                            [127]


以上のように,サプレッサーではバックグランド電気伝導度の低減と共に,測定対象イオンの増感という,2つの働きを示します。また,バックグランド電気伝導度が下がることによりベースラインノイズも小さくなりますので,ノンサプレッサー式に比べ5〜10倍の高感度検出を可能とします。
尚,陽イオン分析の場合でも同様の効果を示しますが,感度に関しては,ノンサプレッサー式のほうが高くなります。

 
溶離液

サプレッサー                HNO3        +    ├NH4OH   ⇒   H2O  +  ├NH4Cl
[極限モル伝導率]       (350+71)                                        [0]
                                          [421]

ノンサプレッサー      HNO3                                  ⇒   HNO3
[極限モル伝導率]     (350+71)                                    (350+71)
                                        [421]                                            [421]

測定対象イオン

サプレッサー                NaCl        +    ├NH4OH   ⇒   NaOH  +  ├NH4Cl
[極限モル伝導率]       (51+76)                                     (51+199)
                                          [421]                                        [250]

ノンサプレッサー      NaCl                                    ⇒   NaCl
[極限モル伝導率]      (51+76)                                      (51+76)
                                        [127]                                            [127]

以上の通り,サプレッサー式では,バックグランド電気伝導度が低減され,測定対象イオンが増感されます。しかし,検出信号は,測定対象イオンの電気伝導度とバックグランド電気伝導度との差として得られるものですので,差だけで比較するとノンサプレッサ式のほうが高感度であるといえます。

サプレッサー式:250 – 0 = 250 ノンサプレッサー式:127 – 421 = -294

但し,ノンサプレッサー式の場合にはバックグランド電気伝導度が高いため,安定したベースラインが得られるよう,イオンクロマト装置の設置環境等に十分注意を払うようにして下さい。

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Q42:pHが高い (低い) 試料をそのまま注入しても問題ありませんか?

A42:保持時間やピーク面積の変化する恐れがありますので,純水や溶離液で希釈した後,注入量するようにして下さい。
溶離液条件とpHが大きく異なる試料を注入した場合には,試料中に含まれる酸やアルカリの影響により,保持時間,ピーク面積,ピーク高さ,ピーク形状等が変化することがあります。このような現象が観察された場合には,試料を純水や溶離液で希釈した後,注入するようにして下さい。

一般的な測定条件では注入量が少ない (10〜50 µL) ため,pH範囲の試料は直接注入しても大きな問題とはなるようなことはありません。しかし,正確な定量をしなければならない場合には,上述したように保持時間やピーク面積が変動するため,純水や溶離液で希釈した後,注入するようにして下さい。特に,pH範囲を超える濃度範囲の酸やアルカリを含んでいる試料の場合には,必ず中和する等の前処理をした後,注入するようにして下さい。
試料溶液のpHを調整する手段としては,純水や溶離液による希釈以外にも幾つかの方法があります。以下の方法も参考にして前処理を行って下さい。

①前処理カートリッジによる酸性試料の中和
OH型の陰イオン交換樹脂が充填された固相抽出カートリッジを通過させると,試料中の酸性成分 (Cl,NO3,SO42-等) が陰イオン交換樹脂に捕捉されます。代わりにOHイオンが放出され,過剰に存在するH+イオンと反応してH2Oに変換されます。試料中に存在する陰イオンは陰イオン交換樹脂に捕捉されてしまいますので,この方法は陰イオン分析に使用することはできません。

②前処理カートリッジによる塩基性試料の中和
H型の陽イオン交換樹脂が充填された固相抽出カートリッジを通過させると,試料中の塩基性成分 (Na+,K+,NH4+等) が陽イオン交換樹脂に捕捉されます。代わりにH+イオンが放出され,過剰に存在するOHイオンと反応してH2Oに変換されます。試料中に存在する陽イオンは陰イオン交換樹脂に捕捉されてしまいますので,この方法は陽イオン分析に使用することはできません。

③インライン中和装置による塩基性試料の中和
上記のような前処理カートリッジを使用する中和方法はオフラインで操作しますので,環境及びカートリッジからの汚染が問題となることがあります。メトロームではサプレッサユニットを利用したインライン中和装置を提供しています。基本的原理は上記②と同じですが,インライン処理のため汚染が発生しにくく高精度な測定を可能とします。

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Q43:分離が不十分なので,もっと分離を良くしたいのですが?

A43:まず,溶離液濃度を低くして分離状態の変化を見て下さい。
イオン交換モードによるイオンの保持時間は,下図 (陰イオン分析の例) に示すように,溶離液中の塩濃度に依存します。溶離液の塩濃度を低くすると,全イオンの保持時間が増加して分離が改善されます。イオン種によって変化する度合いが異なりますので,多少の分離の改善を行うことができます。この方法は微妙な分離の改善に有効で操作も簡単ですので,まずこの方法から試して下さい。但し,溶離液濃度を極端に低くすると保持時間が大幅に増加しますので,まず元の溶離液濃度の80%程度の濃度にして試して下さい。

さらに大幅な分離の改善を行う必要がある場合には,溶離液の組成 (溶離液の種類やpH等) を変更する,カラム温度を変更するという方法があります。これらの効果はイオン種によって異なりますので,種々条件を変更しながら,分離の変化度合いを見て下さい。
これらの方法によっても目的の分離が得られない場合には,分離カラムを変更する必要があります。分離カラムのカタログを参考にするか,分離カラムのメーカーに問い合わせてみて下さい。

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Q44:クロマトグラムの波形処理の基本を教えて下さい。

A44:基本は垂線処理と谷処理の二つです。これらを組み合わせて適切と思われるピーク面積を得るようにします。
クロマトグラムの波形処理の基本的な考え方は,JIS K 0124 高速液体クロマトグラフィー通則,JIS K 0127 イオンクロマトグラフ分析通則の他,種々の成書に載っています。しかし,波形処理の考え方は絶対的なものではなく,適切と思われる面積値が得られた波形処理が,「正しい」ものということになります。従って,種々試行錯誤して最適な波形処理条件を見つけるべきだと思います。
ここでは,波形処理の考え方に関して簡単にまとめます。
①ピークの認識と面積値の求め方 A-1に示す通り,検出器の応答がベースラインから増加した点 (始点) と,ベースラインのレベルに戻った点 (終点) を結んだ線で囲まれた部分をピークとします。この線もベースライン (基線) と呼びます。これらの線で囲まれた部分の面積をピーク面積といいます。また,ピークの最も高い点 (ピークトップ) からベースラインに向かって垂線を落とし,その交点とピークトップまでの長さをピーク高さ h と呼びます。また,ピーク高さの半分 h/2 の所におけるピークの幅を半値幅 W0.5h と呼びます。ちなみに,ピークトップが保持時間 (溶出時間) となります。これらの単位は,基本的に時間 (minあるいはsec) で示します。

ベースラインがドリフトしている場合には,ベースラインのドリフトに合わせてA-2に示すように基線を引きます。
ピークの始点及び終点は,データ解析装置やインテグレータに適切な数値を設定しておけば自動認識してくれます。しかし,テーリングピークの場合にはA-3のように終点が期待と大きくずれてしまう場合があります。このような場合には,ピーク認識の数値を変更して適切な基線が引けるようにして下さい。

②重なり合ったピークの認識と面積値の求め方
2つのピークが重なっている場合には,B-1のように重なり合った部分の面積が加算された状態のピークとなります。このような場合のピーク認識の基本はAの場合と同じで,前のピークの始点と後ろのピークの終点を結んで基線とします。ピーク面積の求め方には2種類あります。垂線処理 (B-2) は,重なり合ったピークの谷から垂線を落としてピークを分割します。2つのピーク高さが大きく違わない場合には,それぞれ妥当と考えられるピーク面積を得ることができます。もう一つの方法は,谷処理 (B-3) です。こちらの方法は,前のピークの始点と谷,谷と後ろのピークの終点を結び,基線とします。この方法では,斜線で示した部分の面積が欠落してしまうため,2つのピーク共期待よりも小さい面積値となります。B-3で示すように,ベースラインに変動がなく直線的である場合には,この方法による面積測定は不向きで,垂線処理 (B-2) を選ぶべきです。しかし,ベースラインにうねりがある,大きな瘤のような変動があり,それらの上にピークが乗っていると推定される場合には,谷処理によって面積を求めた方がより妥当な値といえます。

③大きなピークの裾に乗った小ピークの認識と面積値の求め方
イオンクロマトでは濃度差の大きく異なるイオンの測定を行わなければならないことが多々あります。そのような場合に,振り切れてしまう大きなピークの裾に小さなピークが乗った状態で検出されることもあります。このようなピークはC-1に示すような2つのピークが重なっていると考えて良いと思います。
このようなピークの波形処理は非常に悩ましいものとなります。

C-2のように垂線処理をした場合,小ピークの面積値は過大評価されてしまいます。一方,C-3の様な谷処理を行った場合には,若干過小評価されてしまいます。どちらを取るかに関しては,正解はありません。目的に応じて選択するべきです。敢えて正解は何かと答えるなら,「もう少し分離を改善してから定量する」だと思います。ただ,メーカーによっては,C-1に示すように,ピークの全体的な形状から推定曲線を引いて面積を求めるという設定をすることができるものもあります。
いずれにしろ,妥当と思われる値となるかどうかが重要ですので,種々の数値を変更しながら,最適と思われる波形処理を行って下さい。

Q45:サプレッサ方式においてアンモニウムイオンの検量線が曲がるといわれますが,ノンサプレスト式ではどうですか?

A45:ノンサプレスト式では検量線の曲がりは生じません。
検量線は直線であったほうが直感的に理解しやすいためなのでしょうか,「検量線は直線でなければならない」と思われているかたが多いのではないでしょうか?検量線の目的は,得られた信号から正確な濃度を得るための定規にしかすぎません。つまり,検量線が二次曲線であったとしても,再現性良く作成することができ,正確な濃度が求められれば良いのです。従って,検量線が「曲がる」,「曲がらない」といった議論は,本質的には無意味なものなのです。

検量線が曲がるかどうかは測定対象物質の検出器に対する応答の性質 (電気的特性,光学的特性等) に依存するため,すべての物質において直線になるとは限りません。
アンモニウムイオンはすべてのpH範囲でイオン化している訳ではなく,下記のような平衡状態にあります。酸性条件ではイオン化しているNH4+の存在比増加し,pHが高くなるにつれてイオン化しているNH4+の量が減少して,NH3の存在比が増加します。つまり,pHによってイオン量が変化してしまうという訳です。

NH3 + H+ ⇔ NH4+

ここで,電気伝導度検出器はその名の通り,溶液中の電気伝導度,すなわち電気の通り易さ=イオンの量を検出する検出器ですので,イオン化しているNH4+のみが検出されます。つまり,NH4+の存在比が変わってしまうと,元のNH4+量が同じであっても同じ信号を得ることができないこととなります。

ノンサプレッサ式の場合,溶離液は硝酸等の酸の希薄溶液を用い,溶離液中に存在するNH4+を直接測定します。つまり,アンモニアは検出器の所でも酸性条件下におかれているために,アンモニアの平衡はNH4+側に偏っているので直線的な検量線が得られます。

一方,サプレッサ方式の場合では,溶離液はノンサプレッサ式と同じですが,サプレッサを通過することにより,溶離液はH2Oに変換されます。アンモニアを水に溶かした場合,次のような平衡が生じます。アンモニアの酸解離指数 (pKa) は9.38ですので,アンモニアを溶かした水は弱アルカリ性です。アンモニアの量が極微量であればほぼ中性ですが,その量が増加するとその溶液のpHは上昇します。

NH3 + H2O ⇔ NH4+ + OH

つまり,アンモニア濃度が高くなると,解離平衡はNH3側にずれ,NH4+が減少することによって,単位濃度当たりの電気伝導度が低下するということになります。その結果として,検量線の曲がりが生じます。

 

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