近赤外分析計(Near-infrared spectroscopy, NIR)は、30年以上にわたり確立された分光分析手法です。固体および液体の化学的・物理的特性を迅速かつ信頼性の高い方法で測定できます。本シリーズの第1部では、近赤外分光法の仕組みを紹介し、この手法の利点と多様性について解説します。
以下のトピックに直接移動できます:
近赤外分析計の測定原理
近赤外分光法は、光と物質の相互作用を利用し、スペクトルを計測する手法です。分光法では、光は通常、エネルギーではなく波長で表されます。NIR分光法は、電磁スペクトルの近赤外領域、つまり波長範囲780~2500 nmの光を使用します。言い換えると、NIR分光計は、NIR領域のさまざまな波長における試料の光吸収を測定します。
なお、近赤外(NIR)と中赤外(MIR)は異なる波長範囲であり、両者の違いについてはブログ記事 «NIR vs. IR: 何が違うの?»で詳しく解説しています。
NIR分析法(近赤外分析法)は二次的な分析手法です。つまり、最初に検量線予測モデルを作成する必要があります。これはHPLCと同様に考えることができます。HPLCで物質を特定または定量化するには、まずその物質の標準溶液を調製し、測定して検量線(キャリブレーションカーブ)を作成する必要があります。
これはNIR分析法でも同様で、まず既知の濃度や一次分析法(例えば滴定)で測定されたパラメータ値を持つ複数のスペクトルを測定する必要があります。これらのスペクトルを基に、ケモメトリックスソフトウェア(例えばMetrohm OMNISソフトウェア)を用いて検量線予測モデルが作成されます。その後、未知試料のルーチン分析を開始できます。検量線予測モデルの作成方法については、コラム記事 «ラボのワークフローに NIR 分光法を導入する方法»で詳しく解説しています。
NIR分光法は特に、-CH、-NH、-OH、-SHといった特定の官能基の存在に対して感度が高いため、水分含量(含水率)、水酸基価、酸価、アミン含量などの化学的パラメータを定量するのに最適な手法です。
さらに、光と物質の相互作用は試料のマトリックス(基質)にも依存するため、粒子サイズ、密度、固有粘度、メルトフロー率などの物理的・レオロジー特性の検出も可能になります。
固体および液体サンプルの測定方法
NIR分析法の利点を理解するには、まずNIRスペクトルの測定方法を理解することが重要です。通常はサンプルの種類に応じて、研究者は異なる機器を使用する必要がありますが、NIR分析法は、さまざまな種類のサンプルの分析を1台可能にします。
透明な液体から不透明なペーストや粉末まで、さまざまなサンプルに対応する複数の測定方法が存在します。適切な測定方法、サンプリングモジュール、アクセサリーを選択することは、信頼性の高いNIR分析法を確立する上で最も重要なステップです。以下に、異なるサンプルタイプに適した測定方法(拡散反射法、透過反射法、透過法)を示します。
固体サンプルの測定方法
拡散反射法: クリーム、ペースト、顆粒、粗い粉末および微細な粉末
NIR光はサンプルに浸透し、相互作用を起こします。吸収されなかったNIRエネルギーは反射して検出器に戻ります。この方法は、試料の前処理をせずに固体サンプルを測定するのに最も適しています。
固体サンプルの測定例
固体サンプル(例:粉末)は、適切な容器やバイアルビンに充填した上で、ここに示すようにウィンドウ上に設置する必要があります。
NIR光は下方から照射され、サンプルによって一部が反射され、同じくサンプル容器の下部に配置された検出器で測定されます。約30秒後に測定が完了し、結果が表示されます。この反射光にはサンプルに関するすべての重要な情報が含まれているため、この測定技術は「拡散反射法」と呼ばれます。
液体サンプルの測定方法
透過反射法: 液体およびゲル
この測定方法は、透過法と反射法を組み合わせたものです。サンプルの背後にリフレクターを配置し、吸収されなかったNIR光を反射させて検出器へ戻します。この方法は、液体サンプルの測定に最も適しています。
透過法:液体サンプル
子の測定方法は、サンプルがNIR光源と検出器の間に配置されます。NIR光はサンプルを透過し、吸収されなかったNIRエネルギーはそのまま検出器に到達します。この方法は、透明な液体溶液や懸濁液の測定に最も適しています。
液体サンプルの測定例
画像が示すように、液体サンプルのNIR分析では、バイアルまたはキュベットをサンプルホルダーに挿入する必要があります。スタートボタンを押すと、約30秒後に結果が得られます。
この場合、NIR放射線は解析格子を通過した後、検出器に到達します。この測定技術は「透過法」として知られています。
NIR分光法の利点
NIRスペクトルを取得する手順は、近赤外分光法の2つの主な利点をすでに示しています。それは、サンプル測定における簡便さと速度です。これらに加えて、NIR分析のその他の利点は以下の通りです:
- 高速な技術 – 結果が1分以内で得られます。
- サンプルの前処理不要 – 固体と液体は純粋な形で使用できます。
- 低コスト – 化学薬品や溶剤は必要ありません。
- 環境に優しい技術 – 廃棄物が生成されません。
- 非破壊的 – 貴重なサンプルは分析後に再利用できます。
- 操作が簡単 – 経験の少ないユーザーでもすぐに測定できます。
NIR分光法の応用
NIR分析法は多用途な技術であり、化学的および物理的なパラメータの分析に幅広く使用されます。NIR分析は、化学、ポリオール、ポリマー、食品および飲料、動物飼料、製薬、パルプおよび紙、塗料、石油化学、バイオ燃料、パーソナルケア、繊維、半導体産業などで実施されています。一般的に、NIR機器は品質保証および品質管理、原材料の識別または化学組成の検証、プロセス制御およびリアルタイム反応モニタリング、スクリーニングに使用されます。
さまざまな応用例は、専用のブログ記事で確認できます:
ポリマー: ポリエチレン(PE)の密度、メルトフローレート(MFR)、固有粘度(IV)
化学:ポリオールの水酸基数
石油化学:ガソリンの研究オクタン価(RON)、ディーゼルのセタン指数
油脂および潤滑油:総酸度(TAN)
製薬:凍結乾燥製品の水分含量、錠剤の含量均一性
化粧品(パーソナルケア):クリームの水分含量および有効成分
パルプおよび紙:木材パルプのカッパー価、密度、パルプ自由度、破断強度、座屈強度、引張強度
塗料およびインク:インク中の染料、ジエチレングリコール(DEG)、界面活性剤、水分含量、および塗料中のコバルト、固形分含量、比重、粘度測定
食品:さまざまな食用油の多項目分析
飲料:コーヒーのカフェイン、水活性、密度、および水分分析
表面処理:洗浄、脱脂、すすぎ、リン酸塩処理浴での重要なパラメータのモニタリング
半導体:化学エッチング、洗浄、すすぎ浴の組成管理
バイオ燃料:発酵プロセスにおけるエタノール生産のモニタリング
NIR分光法の応用については、アプリケーション検索ファインダーから検索できます:
近赤外分光法は、固体および液体の化学的および物理的特性を測定する信頼性の高い分析手法です。この高速な手法は、ラボ教育を受けていないスタッフでも日常的な分析に問題なく導入できます。
NIR分光法が何であるかの解説の次は、それをどのようにラボのワークフローに簡単に組み込むことができるかを解説します: